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コラム

精神科作業療法の過去・現在・未来

今年で世界作業療法士連盟が設立して65年、日本作業療法士協会が設立して51年になる。作業療法士という仕事は、約50~60年の歴史があるということになる。

   

しかし「作業療法」とは表現しなくとも、作業を使って健康の維持・回復に取り組んでいた歴史は、実はかなり古い。紀元前2000年以上前から中国ではカンフーで健康増進に取り組んでいたと言われるし、紀元前4世紀から3世紀ごろには、医学の父とされるヒポクラテスが患者を神殿に集め、音楽や演劇、乗馬やレスリングを行っていたと言われる。素朴ではあるが、これらは作業療法の元祖と言っても良いだろう。

近代医学の幕開けといわれる17世紀ごろには、身体疾患に感心が集中し、精神疾患は悪鬼病とか、神狂病と呼ばれ、魔女狩りも横行した。無知がゆえに恐怖や敵意の対象となってしまうことは、度々見られる人類の悲しい歴史である。

西洋に限らず、わが国にも似たような歴史はあったように思う。ひとが集まり都市化が進んだ江戸末期には「入檻」といわれる私宅監置の原型ができ、明治8年には初の公立の精神病院ができたのだが、病気の治療というよりも治安維持のための収容という側面が強かった。これは1960年代半ばの精神病院ブームにおいてもさほど変わりなく、鉄格子のある窓の向こう側に患者は「収容」され、一様に「管理」されることが通常にあった。現代の価値観に照らせば、ひとの尊厳が危うい状況である。(もちろん、必ずしも差別されていたわけではないが。)

今では鉄格子つきの精神病院を見かけなくなったが、そこに入院している方々は「入院歴30年(あるいはもっと)」だったりする。その方々は、たとえ病状が落ち着いていたとしても、長年の入院生活によって生活能力をすっかり失ってしまっていたりして、なかなか退院という話にはならない。精神病院に勤める作業療法士は、その生活能力を維持・改善させることを求められるが、実際のところ、退院に至るには至難の業である。

…というのが現状であるが、これからは「当たり前に退院する」ことが(期待を込めて)珍しくなくなるだろう。至難の業かどうかは、患者よりもスタッフ側のあり方によるのである。

最近聞かれる概念で「ハウジングファースト」というものがある。これによると、「まず家に住む」ことが重視される。これまでは、患者がリハビリを行い、評価を受け、「退院できるかどうか」判定された上で、ようやく退院できていた。退院はゴールのようなものである。

しかし、「ハウジングファースト」では退院(家に住む)はスタートと言える。まず家で生活し、そこで当然のように発生する現実的な課題(例えば、隣人に挨拶できない)に対して、皆でアプローチし、解決に向かうのである。入院環境という、生活が(ときには尊厳も)制限された状況で「リカバリー(回復)」を唱えることはナンセンスであり、まずは「家に住んでこそ」リカバリーが始まるという考え方と言える。

わが国の方針としても、精神科の病床を減らし、地域で支援していくことを目指している。「ハウジングファースト」の概念は、そこに合致しているように思う。

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この記事を書いた人

小林 誠 先生

作業療法の専門学校を卒業後、千葉県内の精神病院に入職し、主任を勤める。 責任者として、後輩に対する指導と、実習生に対する指導を行うにつれ教育の道を目指し今に至る。
座右の銘
一期一会

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