コラム

医療ソーシャルワーカー(MSW)という仕事

医療ソーシャルワーカー(MSW)という仕事

医療ソーシャルワーカーという職種をご存知ですか?

仕事内容は、

  • 退院・転院に関わる調整・援助
  • 経済的問題に関わる調整・援助
  • 各種医療費助成制度のご説明
  • 障害者手帳申請方法のご説明
  • 虐待に関する各種関係機関との連絡・調整
  • 心理的問題の解決・調整援助
  • 成年後見制度に関する申請援助
  • 受診相談に対する調整・援助

など、多岐に渡ります。

一言で言うと、『病院の何でも屋』とでも言うべきでしょうか。

患者様や患者様のご家族からの、ありとあらゆる相談に乗る仕事です。

様々な仕事内容の中でも、上記①の『退院・転院に関わる調整・援助』が主な仕事内容になります。

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者様の退院支援

私は以前、大学病院の医療ソーシャルワーカーとして仕事をしていました。様々な方の退院・転院に関わってきましたが、今回は、その中でも特に印象に残っている患者様の退院支援についてお話をしたいと思います。

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、、、

手足・喉・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害を受けます。その結果、脳から「手足を動かせ」と言う命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉が痩せていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などは全て保たれることが普通です。

1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人あたり1〜2.5人です。全国では、平成25年度の特定疾病医療受給者数によると約9200人がこの病気を患っています。

多くの場合は、手指の使いにくさや肘から先の力が弱くなり、筋肉が痩せることで始まります。話しにくい、食べ物が飲み込みにくいという症状で始まることもあります。いずれの場合でも、やがて呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉が痩せて力が入らなくなり、歩けなくなります。喉の筋肉の力が入らなくなると声が出しにくくなり(構音障害)、水や食べ物の飲み込みも出来なくなります(嚥下障害)。またよだれや痰が増えることもあります。呼吸筋が弱まると呼吸も十分に出来なくなります。進行しても通常は視力や聴力、体の感覚などは問題なく、眼球運動障害や失禁も見られにくい病気です。

(難病情報センターホームページより引用http://www.nanbyou.or.jp/entry/52

2014年、FacebookやYou Tubeなどでアイスバケツチャレンジが社会現象化したことにより、この疾患をご存知の方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

 

私が介入した患者様は、Aさん(50代女性)というALSの方でした。

Aさんは、Aさんの夫(70代男性)と2人暮らし、子どもはいません。

Aさんご夫婦はご近所の方や親戚の方とも交流のない状況、生活保護を受給中でした。

Aさんの主治医から、「Aさんの支援をしてほしい」と介入依頼を受け、私が初めてAさんとお会いした時、Aさんはすでに長期入院中で、1人では起き上がることも出来ない状態でした。長期にわたる服薬(プレドニン)の副作用と、もともと食べることが大好きな性格なため、Aさんは肥満状態。褥瘡がひどく、2時間おきには体位交換が必要(入院中は看護師2名で体位交換を行っていた)、気管切開をしており、スピーチカニューレを装着していたため痰の吸引も随時必要な状態でした。

Aさんの夫は非常に痩せ型、高齢のため聴力が低下しており、腰が曲がっている状況でした。それでも、電車と徒歩で片道40分ほどかけて毎日かかさずAさんの面会へ来ていました。Aさんの夫に、「食事はどうしているの?」と伺ってみると、「たまにコンビニでおにぎりを買って食べている」とのことでした。

AさんとAさんの夫はとても仲がよく、自宅退院を強く希望していましたが、現実的に考えると自宅へ帰ることは非常に難しい状態でした。しかし、「どんなリスクがあってもかまわない。死んでもいいから家に帰りたい」というAさんご夫婦の強い希望により何度も院内の職員で話し合い、自宅へ帰すことを決意しました。

そこからは、Aさんの退院へ向けて院内・地域のさまざまな職種が集まり、何度もカンファレンス(会議)を開催しました。

Aさんの退院支援をする上でどのような職種の方のサポートや連携が必要か、考えて、介入を依頼することも医療ソーシャルワーカーの仕事です。

 

カンファレンス(会議)には以下の職種に参加していただきました。

・主治医(神経内科の医師)

・耳鼻咽喉科の医師

・病棟看護師

・薬剤師

・当院の理学療法士

・役所の生活保護課の担当ケースワーカー

・役所の障害福祉課の方(Aさんの障害支援区分は6。当時は、『障害程度区分』という名称でした)

・役所の介護保険課の方

・Aさん宅の地域担当の保健師

・訪問診療医、訪問看護師、訪問介護のケアマネージャーとヘルパー

・Aさんご本人とAさんの夫

・医療ソーシャルワーカー

今では、40歳以上のALSの方は介護保険のサービスを利用することができますが、その当時は65歳以上にならないと介護保険は利用できず、障害者総合支援法(当時は、障害者自立支援法という名称でした)のサービスしか利用できませんでした。

介護保険課の方に来ていただいたのは、Aさんではなく、Aさんの夫に介護保険のサービスを利用していただきたいと考えたからです。早急に夫の介護認定を申請しました。Aさんの夫は要介護2の認定を受け、Aさんの夫の食事や洗濯など身の回りのことはヘルパーにお願いできることになりました。

役所の障害福祉課の方と、生活保護課のケースワーカーの方とで相談していただき、生活保護の状況でどこまで障害者自立支援法のサービスを利用出来るのか考えていただき、1週間のサービスのスケジュールをケアマネージャーの方や当院看護師と調整しました。

Aさんの夫には、入院中に病棟看護師が痰の吸引の指導を行うことにしました。「自宅に帰ってから、妻の体位交換は自分がやりたい」とAさんの夫は言っていましたが、現実的には難しいため、日中お願いしている訪問介護の他に24時間巡回型の訪問介護の導入を検討し、夜間の体位交換をしてくれる訪問介護事業所を見つけました。

当院の医師と訪問診療医師との間では何度も何度も病状の確認を行い、Aさんの状態の急変時は必ず救急搬送を受け入れることを約束しました。

病棟看護師は、訪問看護の看護師とカテーテルの交換頻度などを、Aさんに対してどのようなケアを行っているのかを確認しました。

地域の保健師さんには、定期的にAさん宅を訪問し生活状況を確認していただくことにしました。

では、医療ソーシャルワーカーは何をしているのかと言いますと、各々の関係機関の方に連絡をし、カンファレンス日程の調整を行います。そして、各々の職種に、随時状況の確認を行います(各々の職種の方からの連絡窓口は医療ソーシャルワーカーに統一しました)。退院の日にちが決まったら、自宅までの移動手段(民間救急を利用)の確保をしました。

ついに自宅退院の日にちが決まり、Aさんは自宅での生活を開始することが出来ました。

院内職員は、すぐに痰が詰まるもしくはカニューレが外れて救急搬送されてきちゃうんじゃないか…と心配してましたが、夫がしっかり痰の吸引をし、安定した状態を長期間過ごせていました。訪問看護の方から、定期的に「Aさん、口からほんの少しだけど大好きなお饅頭を食べられたよ」など報告をいただくことを院内職員みんなでとても楽しみにしていました。

 

Aさんが退院してから1年後、訪問診療医の方から「Aさんが亡くなった」と連絡をいただきました。

その後、少し時間が経って落ち着いてからAさんの夫が病院へ挨拶へ来てくれました。「最初はこれからどうすればいいのかわからなくてオロオロしてたけど、いろいろと相談に乗ってもらえてよかった。最後、家で2人で過ごせて本当によかった。3ヶ月くらい一緒に生活出来れば十分と思っていたけど、1年間も妻と一緒に生活出来た。本当にありがとうございました」と言っていただけた時、少しはAさんご夫婦のサポートが出来たかなと思い、ソーシャルワーカーをしていて良かったと感じた瞬間でした。

最後にソーシャルワーカーのやりがい

医療ソーシャルワーカーの仕事は1人では成り立ちません。

医師・看護師や薬剤師等の院内職員はもちろん、役所や保健所・地域包括支援センターなど地域の関係機関の方との協力・連携が必要不可欠です。支援の輪をひろげていくことが、現場で働く上で非常に大事だと常に感じながら仕事をしていました。

また、医療ソーシャルワーカーに関わらず、社会福祉士・精神保健福祉士の仕事は全て対人援助職です。1人として全く同じ人間はいません。疾患だけで判断せず、生活環境も考慮した上で、1人1人の支援方法を考えていくことになります。『絶対』や『100%の正解』は存在しません。それがこの仕事の難しいところですが、やりがいでもあると私は考えています。私は、『ソーシャルワーカー』の仕事が大好きです。

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この記事を書いた人

安部 直美 先生

大学卒業後、精神保健福祉士を取得し、都内の病院の医療ソーシャルワーカーとして働いた後、精神保健福祉士を目指す学生の支援をしている。

座右の銘:臨機応変

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