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私がTさんと深く関わるようになったのは、知的障がい者入所更生施設に入職して2年目のことでした。この施設では、生活相談員が介護や作業支援の仕事をす べて担います。Tさんの担当になった私は、一緒にご飯を食べ、男同士だから一緒にお風呂にも入ります。Tさんの年齢は20歳。自閉症で言葉が話せません。 でも、自分がうれしいとき、機嫌がいいときには「エヘヘッ」と、こぼれるような笑顔を見せてくれます。とても人なつっこくて、私のことも抱きしめてくれた りします。

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想いが通じない。すれ違いが続きました。

そんなTさんですが、自閉症から来る特別な行動が目立ちました。たとえば自分の思いが通じないときや機嫌が悪いときは、自分のあごを強くたたいて「いやだ」と意思表示をします。

最初のころは、そん な行動を直そうと思ったのですが、まったく通じません。あまりに痛そうなのでやめさせようと大きな声で言ったりするのですが、Tさんはどうして怒られているのかがわからず、不満が高まります。そして、一時は私の顔を避けるようになってしまいました。

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彼は私の手を振り払い、「嫌だ」の気持ちを表現し続けました。

そんなTさんにはアルミ缶をプレス機で潰すという日課があります。潰した空き缶をリサイクル業者に引き取ってもらい換金するのです。その作業に行くとき、私は時間に追われて、ついTさんを急いで着替えさせて「作業活動へ行こう」と誘ってしまいます。

でも、彼は私の手を振り払い、少しでも強い力で誘うと、あごをたたいてしまうの です。そのとき気づいたのです。「ちょっとだけ早く彼の部屋に行き、一緒の時間を過ごし、一緒に服を選んで、楽しい気持ちで作業に行けば今の行動はなくな るのではないか」

そうか、Tさんを変えようとするのではなく、私が変わればよかったんだ。

実際、そのようにしてみると、Tさんはお気に入りのジャージをたんすから引っ張り出し、ズボンの前後に注意しながら着替えて「エヘヘッ」と上機嫌になりま す。そして、彼から手を差し出してくれて、私たちは手をつないで一緒に作業活動に向かうようになったのでした。

Tさんのお母さんの言葉が 今でも印象に残っています。「鈴木さん、私の願いはこの子が仕事を持つとか、言葉が話せるようになるとかではないのよ。一分間でも長く笑顔でいられる施設 をつくってね」
その何年か後に介護老人福祉施設に移ることになった私に、Tさんたち入所者の方がお金を出し合ってプレゼントを贈ってくれました。 それが今も大事にしている手帳です。


講師紹介鈴木先生

鈴木康彦

・社会福祉士
・介護支援専門員(ケアマネージャー)


「笑顔があってこそ、価値がある」がモットー。

東京福祉専門学校

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