こどもの意思決定支援について
今回は、こどもの意思決定支援についてお話ししします。
「意思決定支援」とは、すべての人には意思があるという前提に立って、本人が自分で自分のことを決めるにあたり、ひとりひとりに合わせた支援を行うことです。人は誰もが自由に自分の意思を言うことができる・意思を聞いてもらう・尊重することを大切にした考え方となっています。これは、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」に“私たちのことを私たち抜きに決めないで”というメッセージをきっかけに、様々な事情で意見を伝えることや、聞いてもらえない状況・状態であることにより、自身の望む意思決定が阻害されてしまっている人たちへの支援として「意思決定支援」が様々な分野に広まりました。
そもそも、意思決定支援とは、その人たちの生きるために必要な意思を決定するいわゆる、権利であると考えます。権利というと、一般的には「人権」を想像する方もいると思います。人権とは、憲法第13 条の自己決定権の一環として、人である限りすべての人に保障されている重要な基本的人権です。 つまり、子どもや高齢者、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分であるからといって、「自分のことを自分で決める」権利を奪われることはあってはならいのです。
しかし、子ども分野においては度々その「意思決定支援」が子どもではなくその養育監護権のある養育者に委ねられることがあります。
「この子のために」
「小さいからまだ判断基準が曖昧だから」
などといった理由で、養育者がその子どものこれからのことや、日常的な意見を決めてしまうことは、意識化・無意識化の中にも多々あると思います。確かに、その考え方自体は悪くありませんし、選択するときの「見立て」や「その後に待ち受ける予測」を考えると、子どもたちの安全・安心の環境を整えることは養育者の義務でもあります。
子どもの権利に関する歴史を少し遡ると、
1959年、国連総会において「児童の権利に関する宣言」が採択されました。その後「国際児童年」と定められた1979年に合わせて、子どもの人権を包括的に保障するための枠組み作りが本格化。1989年に「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が採択され日本は、1994年に「児童の権利条約」を批准しました。
この条約の中には
- 児童は保護される権利を有するだけではなく、能動的に権利主体として意見を表明するなどの権利を有していること
- 児童の「最善の利益」を考慮すること
が明文化されており、そしてこれらは条約であることから、法的拘束力を持っているとされています。
その流れを受け、2016年の改正児童福祉法では子どもの意見の尊重が明記されました。
さらに2022(令和4)年の児童福祉法改正においては、地方自治体としての役割の明確化が図られました。
都道府県等においては、こどもの権利擁護の取組みを推進するため、
① こどもの権利擁護の環境整備を行うことを都道府県等の業務として位置づける
② 都道府県知事又は児童相談所長が行う措置等の決定時において、こどもの意見聴取等を行う
③ こどもの意見表明等を支援するための事業を制度に位置づけ、その体制整備に努めること
となっています。
しかし、日本ではまだまだ子ども自身が1人の人格として自分自身に関わることに参画し、意見を言える社会とはなっていません。
このことを示す根拠として、2023年日本財団で実施された、10〜18歳を対象にした子どもアンケートとしては国内最大規模の一万人調査を実施しました(集計当時)。
この調査の中で、児童の権利条約を知っていると答えた子どもは9.8%にとどまり、聞いたことがあると答えた子どもを足しても半数に満たないことがわかりました。そして、この児童権利条約で守られていないと思うものとして、「子どもは自分に関することについて、自由に意見を言うことができ、おとなはそれを尊重する」が11%を超え、最も高いことがわかりました。
このように制度や法律において、ただ、実際の子どもはこのような制度を踏まえた、自由に意見を言うことができるといった意思決定の権利を感じているまでには、まだまだ到達していないことが現状です。
そのような中でも児童福祉法の改正を受け、都道府県をはじめとして子どもを支援するソーシャルワーカーを中心に様々な専門職・機関が「子どもの意思決定支援」への取り組みや研修を行い始めました。
この学びの中心としていく考え方は、子どもの権利は普遍的な人権の一環として位置付けられること、そのため子どもは保護の対象にとどまらず、意思を尊重されるべき権利の主体としていることとなっています。
もう少し子どもの意思決定支援活動を深掘りしてみたいと思います。
代表的な活動として、「子どもアドボカシー」と呼ばれる意思決定支援活動です。「子どもアドボカシー」とは、子どもの声を聴き、子どもが意見を表明する支援を行う活動のことをいいます。
子どもの権利は大きく「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」です。しかし、先述にもあったような「この子のために」「小さいからまだ判断基準が曖昧だから」と言うように、結果的に子どもの意見を聞けていないことがあります。または、子どもが意見を言える機会があったとしても、その思いや考えをうまく言葉に言い表せられない子もいます。そういったことで結果的には子どもの意見をきていないのではないか。と言うことで、子どもが、言う権利・発言できる権利を最大限に生かそうと動き始めました。
「子どもアドボケイト」と言う研修を受け認定された専門職が子どもの年齢や発達に合わせて、子どもに意見を言う権利があることを伝え、自分の意見をどう言葉にし、表現し、どのように伝えたいのかを、あくまでも「子ども自身を主体」に一緒に考え、伝える手助けをしています。
子どもの意思決定支援において大切な考え方として
- すべての人には意思があるという前提に立つこと
- 子どもが声を上げやすい環境を作ること
- どんな小さな意見であっても、選択したことを認めていく積み重ねを作る
- 意見を言わせるのではなく、言わない・話さないことを選ぶのも権利
そして子どもの意見を引き出す工夫として
- 意思決定は日常生活から繰り返されることであること
- 決定した意思が実現できることを子ども自身が認識できること
- いくつもの選択肢があることをこども自身が知っていること
- 焦らせないこと、いつでも変更が可能なこと、それがたとえ不合理であったとしても
- 関わる大人たちも真剣に向き合うこと
そして何よりも、子どもが一番言うことができる相手と環境である、信頼関係を気づくことが最も大切です。
信頼関係を築くというと難しく聞こえるかもしれませんが、日常的に約束を守る、話を最後まで聞く、などコミュニケーションをとる上で極めて基本的なことを意識するだけで変わってきます。
最後に、今日は、〇〇のお菓子が食べたい、なんとなく学校に行きたくない、お母さんと公園で遊びたい、今日誰ちゃんと喧嘩をしてしまった……日々生活する中で、心の中にはいろんな思いが湧き上がってきます。それを自分の中に閉じ込めず、周りの人に言うことができたらどんなに気持ちいいか。を気づいてもらうこと、
大人に伝えても無視されてしまい、「どうせ言っても無駄なんだ」と諦めてしまったり、考えることをやめてしまわないよう、「自分の意見を言っていいんだ!」ということを子ども自身が自ら気付けるような毎日を送って欲しいと考えます。そして、周りが子どもの意見を受け止めることが重要だと感じます。
私たち大人が、もし子どもの話に意見したくなったときは、「そう考えているんだね」と一度受け止める必要があります。その上で、大人の考えを押し付けるのではなく「こういう考え方もあるよ」と1つの案として話してみる、そして一緒に何が一番いいかを考える。
なかなか、忙しい毎日の中で常に意識していくことはとても難しいことであると感じますが、一日1回でも、しっかり子どもと向き合って話してみると意外に子どもたちから教わることも多いのではないかと考えます。「子どもも大人も、社会に暮らす対等な存在である、どちらかが優っているとか劣っていると言うことではない」と心より理解し、もしそれぞれが間違った対応をしてしまったら謝り、そして子どもの声に耳を傾けることができたら、信頼関係を崩すことなく、子どもを尊重する社会へ少しずつ変わっていき、子ども自身ももっと意見の言える社会や地域になると思います。
子どもの意思決定支援や子どもアドボカシーについて詳しく知りたい方は、東京福祉専門学校の社会福祉士一般養成科のオープンキャンパスにぜひお越しください。
オープンキャンパスはこちらから
https://www.tcw.ac.jp/event/event_list?event_gakka=shafuku-ippan_all-gakka