コラム

作業療法士の仕事と働く場所について

高校生のみなさんは将来どんな仕事につくか決めていますか?

社会人のみなさん、今の生活、今の職場に満足していますか?

医療系資格を閲覧しているあなたは、きっと誰かの役に立てる仕事を探してる、ちょっと真面目で優しいひと。

医者は無理だなぁ・・・、看護師もいいけど難しそう・・・、臨床検査技師って・・・?

資格がたくさんあるから、何が良くて、何が自分に合っているか迷ってしまいますよね。

作業療法士は医療系国家資格でありながら、とても自由な発想でリハビリを提供する仕事なんです。今回は実際のエピソードを交えながら、作業療法士の面白さをお伝えします。

 

作業療法士の頭の中

お医者さんが患者さんと対面したときはどんなことを考えているでしょうか。

おそらく、症状から疑われる病気を考えていると思います。

看護師さんはどうでしょうか

状態の変化はないかな?困り事は何かな?ではないでしょうか。

理学療法士さんだったらどうでしょうか。

どこが動かしづらいかな?痛みの原因は何かな?ではないかと思います。

 

では、作業療法士は?

「どんなひとなんだろう?」です。

服装、表情、話し方などから人柄や今の心情を察し、これまでの歴史や持っている価値観から、どんな願いを持っているのかなど、そのひとのすべてを理解するための思考を巡らせます。もちろん、病気や障害が与える機能障害も考えます。医療職なのでそれは当たり前です。しかし、目線は病気や障害の先にある“そのひと”に向けられているのです。

 

作業療法士がするリハビリって?

作業療法士の「作業」は、ひとの営みすべてをさします。食事をとる、お風呂に入るといった日常的なことから、ファッションを楽しんだり楽器を演奏するなどの趣味活動、仕事をする、勉強する、ゆっくりお茶を飲んだり寝ることもすべて「作業」です。それを生活の中で再び出来るようなリハビリを考えるのが作業療法士なのです。だから、作業療法士はひとをみます。病気や障害だけをみるのではないのです。病気や障害をもってしまったそのひとをみるのです。作業療法士が患者さんを丸ごと理解するためには、ひとが行う「作業」をたくさん知っておくことが大切です。なぜ、その作業が必要なのか、なぜその作業をしたいのか、その作業が病気によって奪われてしまうと、どうなってしまうのか。

 

作業療法士の実際にあったエピソード

1.救急病院で運動会!?(教員I先生)

救急病院は病気の治療が中心になるので、どうしても活動性が低くなってしまい、特に高齢者は体力の低下や認知症の進行といった問題があります。それらを防止するために、早期にリハビリを開始するのですが、もっと気力を高めてもらいたくて、院内のスペースを使って運動会をしました。作業療法士6名と協力して患者さんの全身状態に注意を払いながら、車いすリレーや風船バレーなどを楽しみました。普段はリハビリを拒否するおばあちゃんもはじける笑顔で参加され、次の日からリハビリの拒否はなくなり、元気に退院されました。

2.旦那さんに料理を作ってあげたい!(教員W先生)

脳卒中で左の手足に障がいをおった60歳代の女性Aさんを担当しました。その方は料理が得意で、旦那さんに料理を作ってあげたいと思っていました。しかし、動かない左手足に自信をなくし、「身の回りのことが一人で出来るようになれればいいです」と気持ちは消極的で活気がない様子でした。私の担当に同じ障がいをもった同世代の女性患者さんがおり、その方は病院内で料理の練習をしていました。ある日、おでんを作りたいとおっしゃったので、私は「作ったおでんで女子会をしませんか?」と提案をしました。Aさんを誘っておでんを作るところから始めました。片手で料理をする姿をみてAさんは「すごいですね」と言うと、「こんなの左手だけで出来るよ」と言われ、Aさんははっとしていました。それが励みになったのかAさんは一人で出来ることが増え、料理の練習も始めました。片手で切る・炒めるなど基本的な調理法をマスターし、念願だった旦那さんに料理を振る舞うことができました。夫婦で涙を流しながら食べる姿は今でも忘れられません。

3.子どもたちはうどん職人!(教員K先生)

発達障がいがある子どもたちと一緒にうどん作りをしたときのことです。
美味しいうどんにするためにはよく踏んで“コシ”をつくる必要があるのですが、この行程 で彼らの力が発揮されます。発達障がいを持つ子どもたちは足裏に加わる刺激が大好きで、普段から飛び跳ねたり、つま先歩きをしてその刺激を楽しんでます。子どもたちにうどんの上で好きなだけ飛び跳ねていいよと伝えるとそれはもうおおはしゃぎ。

「こんなにコシのあるうどんを食べたことないね!」と職員間で話していました(笑)

 

作業療法士は「働きやすい」仕事

高校生のみなさん、将来どんな仕事につくか、もう決まっていますか?
既卒社会人のみなさん、今の生活、今の職場に満足していますか?
厚生労働省が発表した令和2年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は約85年です。(参照:厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life20/index.html
仮に20歳から65歳まで働くとすると、およそ45年間、人生の半分以上が仕事についている時間となります。ますます、仕事選びの重要さを感じますよね。
それでは、理想の仕事には、どんな要素が必要でしょうか。

今回は作業療法士がもつ理想の仕事に不可欠な要素について、様々なデータからお話ししたいと思います。

まず、理想の仕事として重要な要素の1つに「働きやすい環境」があるでしょう。それでは、作業療法士の待遇は、どのようなものでしょうか。
厚生労働省による令和2年度賃金構造基本統計調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html)では、作業療法士の平均給与は月29万円、賞与70.2万円、年収419万円と発表されています。
こちらは日本の平均年収とほぼ同等です。また、作業療法士は勤務1年目からの平均給与水準が高く、それは同調査結果をまとめた、下図の学歴年齢別月給与表からも読み取れます。
(令和2年度賃金構造基本統計調査 より作成)

また、厚生労働省毎月勤労統計調査 令和2年分結果確報(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r02/20cr/20cr.html)では、一般労働者の月残業時間(所定外労働時間)は平均12.4時間であるのに対し、作業療法士は平均4.0時間と発表されています。

さらに需要面においても、作業療法士の需要は年々増えています。活躍できる場所も、病院だけでなく地域まで拡がりが進んでいます。分野を超えた働き方もしやすい上、国家資格であるため転居、出産といったライフイベント時の転職も行いやすいとも言えます。

(平成31年厚生労働省資料 理学療法士・作業療法士の受給推計について より作成)

安定した給与や需要等から、作業療法士はまさに「働きやすい」職といえるでしょう。

作業療法士は「満足度が高い仕事」

仕事に必要な要素は待遇面だけではありません。自らが楽しさや満足度を感じられることが必要です。
では、作業療法士の「やりがい」に関してはどうでしょうか。

2007年のシカゴ大学による5万人を対象にした職業リサーチでは、満足度が高い仕事の上位に医療職があがっています。
「満足度が高い仕事とは、他人を気づかい、他人に新たな知見を伝え、他人の人生を守る要素を持っている」これは、その時の研究者のコメントです。
平成30年岐阜大学の研究結果でも、リハビリテーション専門職650人における「仕事の適性度」及び「働きがい」についての調査がなされ、「医師も療法士も共通して専門性が生かされており働きがいを感じて日々の業務に臨んでいる様子が推察される」と発表されています。

医療系国家資格であるリハビリテーション専門職の中でも、対象者の心理面、身体面、環境面、個人の特性等様々な視点から、作業活動を介しながら枠にとらわれない自由な支援を行えることが作業療法士の魅力の1つです。
自身が関わることで、対象者が前より生活しやすくなった時、笑顔になった時。そこには大きなやりがいが生まれます。

私たちの生活になくてはならない仕事。せっかくなので、「自身」も「誰か」も幸せにできる、一生ものの仕事を選んでみませんか。

拡大する作業療法士の「働く場所」

作業療法士の求人は多く、令和5年度の一般職業の有効求人倍率が1.31倍に対して作業療法士は4.10倍です(厚生労働省ホームページより)。新卒の多くは病院に勤務をしています。近年では利用者様のご自宅で行う訪問リハビリや障がいをもった子どもたちが通う放課後デイサービスの求人増加が目立っています。この両者は作業療法士が起業して事業所を立ち上げることもあります。その他にも、作業療法士のノウハウを生かした人材コンサル、3Dプリンターを使った生活お助け道具(自助具)の作成をする会社など新規事業が次々と生まれています。

作業療法士は柔道整復師や鍼灸師のように医療保険を利用できる医院を開業することは法律として認められていませんが、だからこそ自由な発想を持って起業ができるのかもしれません。

ずっと働きたいと思える要素は何か?

医療職というとシビアな仕事のイメージがあると思いますが、作業療法士は物事に柔軟で優しい印象がありませんか。この病気にはこの薬、腰の痛みにはこの運動療法というように作業療法には決まった方法はありません。ひとの生活の数だけ作業療法が存在し、ひとがもつ価値観の数だけ寄り添い方があります。作業療法を行う場所も病院から施設、在宅、地域、企業など多岐に渡ります。こんなに幅広い働き方ができる医療系国家資格は作業療法士だけだと思います。またこの幅の広さは働く私たちの多様な価値観も受け入れてくれます。

自分がやりたい作業療法に合わせて働く場所を選べるし、年齢や経験によって価値観が変化すればそれに合わせて転職もできます。その時の自分にあった仕事ができるというところが長く仕事を続けたいと思える大きな要因だと思います。

 

作業療法士の専門学校についてはこちら

関連学科

コラム:カテゴリー

作業療法士業界情報

コラム:タグ

リバビリ作業療法作業療法士医療

この記事をシェアする

この記事を書いた人

泉 良太 先生

東京福祉専門学校の卒業生。 卒業後、都内の救急病院で作業療法士として責任者を勤め、その傍らで大学、専門学校の非常勤講師として活躍。 スタッフへのマネージメントや教育をしていく中で教育に気持ちが入り専門学校の教員に転身。

座右の銘:雲の向こうはいつも青空

カテゴリー