社会福祉士国家試験の合格率・難易度はどれくらい?難しい?簡単?
「ソーシャルワーカー」と呼ばれ、身体上もしくは精神上の障がいを持つ人、環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある人の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供することを使命とする社会福祉士。
この社会福祉士は「社会福祉士及び介護福祉士法」にもとづく国家資格であり、高齢者や障がい者、医療機関、さらにはひとり親家庭など、それぞれの状況に応じた支援を行うことはもちろん、行政や医療機関、教育機関など各関連組織をつなぐ役割も併せて担う、これからの福祉社会においてより一層重要性が高まる職業でもあります。
ここでは、そんな社会福祉士の資格を取得するための「社会福祉士国家試験」に焦点を当て、試験の概要や試験科目、過去の試験から見る合格率、難易度などについて解説を行うとともに、試験合格に向けた勉強法や社会福祉士が活躍する場、その将来性などについても併せて解説を行っていきます。
まずは社会福祉士について知る
社会福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」にもとづく国家資格です。
同法第2条第1項によれば、「社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整、その他の援助を行うことを業とする者をいう」とあり、高齢者の介護・福祉はもちろん、障がい者福祉、児童福祉、生活保護施設はじめ、多岐にわたる福祉分野で必要とされる人材となるための国家資格であることが分かります。
特に近年は少子高齢化が加速し、日本の総人口に対して、65歳以上の高齢者が占める割合は29.1%(※1)と過去最多となっています。さらに 日本の総人口が減少している中で高齢者の人口も3627万人と過去最多を記録するなど(※1)、高齢者福祉の重要性が高まっており、その中で専門的な知識と技術を通じて、施設利用者の生活を支援する社会福祉士に対するニーズは以前にも増して大きなものとなっています。
そんな社会福祉士の資格をもって福祉や医療の現場で働く人を「ソーシャルワーカー」、高齢者福祉施設で働く人を「生活相談員」と呼ぶこともあります。また、学校などの教育機関では「スクールソーシャルワーカー」と呼ぶこともあり、これだけを見ても、社会福祉士という国家資格がいかに幅広いフィールドで活かせるものなのかがお分かりになると思います。
社会福祉士になるには
では、そんな社会福祉士になるためにはどうすればいいのでしょうか。
まず大原則として、社会福祉士は国家資格なので、国家試験を受験する必要があります。
その社会福祉士国家試験を受けるには「受験資格」があり、定められた条件を満たしている必要があります。
社会福祉士国家試験を実施する「社会福祉振興・試験センター」によれば、受験資格を取得するルートは、卒業した学校や職歴により全部で12種類あるとしており、それらは「福祉系大学等」「短期養成施設等」(※2)「一般養成施設等」(※3)の3つのカテゴリーに分けることができます。
以下にその3つのカテゴリーを紹介します。
【福祉系大学等】
●福祉系大学等(4年制)で指定科目履修
●福祉系短大等(3年制)で指定科目履修後、相談援助実務1年
●福祉系短大等(2年制)で指定科目履修後、相談援助実務2年
上記の条件を満たすことで受験資格取得となる。
【短期養成施設等】
●福祉系大学等(4年制)で基礎科目履修、短期養成施設等で6か月以上
●福祉系短大等(3年制)で基礎科目履修、相談援助実務1年、短期養成施設等で6か月以上
●福祉系短大等(2年制)で基礎科目履修、相談援助実務2年、短期養成施設等で6か月以上
●社会福祉主事養成機関を卒業した後、相談援助実務2年、短期養成施設等で6か月以上
●児童福祉司・身体障害者福祉司・査察指導員知的障害者福祉司・老人福祉指導主事で実務4年、短期養成施設等で6か月以上
上記の条件を満たすことで受験資格取得となる。
【一般養成施設等】
●一般大学等(4年制)を卒業した後、一般養成施設等で1年以上
●一般短期大学等(3年制)を卒業した後、相談援助実務1年、一般養成施設等で1年以上
●一般短期大学等(2年制)を卒業した後、相談援助実務2年、一般養成施設等で1年以上
上記の条件を満たすことで受験資格取得となる。
「福祉系大学等等」は、在学中に社会福祉士に必要な指定科目を履修するかたちなので、4年制の大学を卒業した場合はそのまま社会福祉士国家試験の受験資格を得ることができます。3年制、2年制の場合はそれに相談援助実務に携わることで受験資格を得ることができます。
「短期養成施設等」は、福祉系大学を卒業しているものの、「基礎科目」のみ履修している場合のカテゴリーです。この場合は 相談援助実務1年以上経験し、その上で福祉系専門学校などで指定科目を学ぶことで受験資格を得ることができます。その他、児童福祉司・身体障害者福祉司・査察指導員知的障害者福祉司・老人福祉指導主事などで実務経験がある場合も福祉系専門学校などで指定科目を学ぶことで受験資格を得ることができます。
「一般養成施設等」は、福祉に関する経歴を持たない人が進むカテゴリーです。福祉系ではない短大や大学を卒業した人で社会福祉士を目指したい人、これからそういった学校の卒業を控えている人などもこのカテゴリーから社会福祉士を目指すことになります。
(※2)福祉系大学・短大に進学し、厚生労働省が指定する基礎科目を履修した方などが入学対象者となる福祉系専門学校などの養成施設。
(※3)祉系大学以外の4年制大学を卒業した方や、指定施設等で相談援助実務を4年以上経験された方が入学対象者となる1年以上修学する福祉系専門学校などの養成施設。
社会福祉士国家試験について詳しく知る
上記に記した「福祉系大学等」「短期養成施設」「一般養成施設」という3つのルートから、それぞれ定められた勉強や実務を行うことで、社会福祉士国家試験の受験資格を得られることが分かりました。
社会福祉士国家試験は、社会福祉士になるための大きな関門であることから、これから社会福祉士を志そうと思っている人は、その詳細について深く理解する必要があります。
ここでは、そんな社会福祉士国家試験の詳細について説明していくことにします。
●受験日について
社会福祉士国家試験は、公益財団法人「社会福祉振興・試験センター」が主催しており、今年(令和5年度)で35回目の試験を数えます。
試験は例年2月上旬に行われ、年1回のみの実施となっています。
令和5年実施の第35回試験は2月2日(日曜日)に行われました。
ちなみに受験の申し込み受付期間についても触れておきますと、令和5年実施の第35回試験の場合は、前年の令和4年 9月8日(木曜日)から10月7日(金曜日) となっており、早くから申し込みを行っておく必要があることを留意しておきましょう。
●試験会場
次に試験会場ですが、全国24の都道府県で実施されており、居住地など生活の拠点がある地域の最寄りの試験会場で試験を受けることができます。
公益財団法人「社会福祉振興・試験センター」の試験概要によれば、試験地は以下の都道府県となっています。
~試験地~
【北海道・東北】
北海道、青森県、岩手県、宮城県
【関東】
埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
【中部・北陸】
新潟県、石川県、岐阜県、
【東海】
愛知県、
【関西】
京都府、大阪府、兵庫県
【中国地方】
島根県、岡山県、広島県
【四国】
香川県、愛媛県、
【九州・沖縄】
福岡県、熊本県、鹿児島県、沖縄県
と北海道から九州・沖縄まで、すべての地方で試験が実施されています。
受験申し込みの段階で、これらの試験地一覧のうち、どこで受験するかを選ぶことができます。自分が住んでいる場所から近いところでもいいですし、それ以外の都道府県で試験を受けることもできます。
ちなみに受験会場は申し込み後、受験票が届いた時点ではじめて分かるようになっています。
●合格率
気になるのが社会福祉士国家試験の合格率でしょう。
厚生労働省発表の「社会福祉士国家試験の受験者・合格者の推移」によれば、今年(令和4年)の合格率は44.2%となっており、その前年の令和3年度では31.1%となっています。(※4)
社会福祉士国家試験は年1回のみと実施回数が少なく、なおかつ合格率も50%以下と決して簡単に取得できる資格でないことが分かります。
よって、「福祉系の大学や養成施設を卒業して受験資格を得たからもう安心」と慢心してしまうのではなく、合格に向けた学習計画の策定や過去問題集などを用いて受験対策を重ねるなど、入念な準備を行うべきでしょう。
(※4):社会福祉士国家試験の受験者・合格者の推移/厚生労働省
●試験科目
次に社会福祉士国家試験では、どんな問題が出題されるのか説明を行っていくことにします。
社会福祉士国家試験を実施する公益財団法人社会福祉振興・試験センターのWEBサイトにある「社会福祉士国家試験」の試験概要ページには、過去の試験問題が掲載されています。
それによれば、令和4年に実施された第35回社会福祉士国家試験の試験科目は19科目となっています。
以下に第35回の社会福祉士国家試験の試験科目を転載しておきます。
①人体の構造と機能及び疾病
②心理学理論と心理的支援
③社会理論と社会システム
④現代社会と福祉
⑤地域福祉の理論と方法
⑥福祉行財政と福祉計画
⑦社会保障
⑧障害者に対する支援と障害者自立支援制度
⑨低所得者に対する支援と生活保護制度
⑩保健医療サービス
⑪権利擁護と成年後見制度
⑫社会調査の基礎
⑬相談援助の基盤と専門職
⑭相談援助の理論と方法
⑮福祉サービスの組織と経営
⑯高齢者に対する支援と介護保険制度
⑰児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
⑱就労支援サービス
⑲更生保護制度
となっています。
それぞれの科目ごとの出題例なども見ることができるようになっていますので、「社会福祉士国家試験に興味がある」という人は、一度目を通しておくことをおすすめします。
(※5)公益財団法人社会福祉振興・試験センターの「社会福祉士国家試験」試験概要
●社会福祉士の合格基準
もう一つ気になるのが、「社会福祉士国家試験の合格基準」でしょう。
これも公益財団法人社会福祉振興・試験センターの試験概要に記載があり、その中の「社会福祉士国家試験合格基準」によれば(※6)、以下の2つの条件を満たした者を合格者とする、とあります。
1.問題の総得点の60%を基準として、問題の難易度で補正した点数以上の得点がある者
2.1.を満たしたもので以下18科目群すべてにおいて得点があること
[1] 人体の構造と機能及び疾病
[2] 心理学理論と心理的支援
[3] 社会理論と社会システム
[4] 現代社会と福祉
[5] 地域福祉の理論と方法
[6] 福祉行財政と福祉計画
[7] 社会保障
[8] 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
[9] 低所得者に対する支援と生活保護制度
[10] 保健医療サービス
[11] 権利擁護と成年後見制度
[12] 社会調査の基礎
[13] 相談援助の基盤と専門職
[14] 相談援助の理論と方法
[15] 福祉サービスの組織と経営
[16] 高齢者に対する支援と介護保険制度
[17] 児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
[18] 就労支援サービス、更生保護制度
注意すべきはたとえ全体の得点率が60%以上であっても、正解が1つもない科目があれば不合格になってしまう点。そのためすべての科目で最低1問以上正解することが必要です。
(※6)公益財団法人社会福祉振興・試験センターの「社会福祉士国家試験」出題基準・合格基準
決して簡単に取得できる資格ではないからこそ価値がある
先に述べたように、社会福祉士国家試験の合格率は、今年(令和4年度:第35)で44.2%、その前年の令和3年度(第34回)で31.1%、令和2年度(第33回)で29.3%と、決して簡単に取得できる資格ではないことが分かります。
そもそも受験資格を得るために福祉系の大学や養成施設で学んだり、条件によって相談援助実務を規定年数満たす必要があるなどハードル自体も高く設定されています。
つまり、社会福祉士資格を得てのソーシャルワーカー業務は、それだけ社会からの期待も大きく、かつ、少子高齢化対策や多様性を認め合う社会づくりを推進する上で極めて重要な役割を果たしていく存在ということで、社会福祉士資格はそれだけ価値がある資格だと言えます。
だからこそ全力で取り組み、チャレンジする価値がある。社会福祉士は、そんな資格だと言えます。
社会福祉士国家試験に合格するにはどんな勉強をすべきか
では、社会福祉士国家試験を受けるには、どのような受験対策を行えばいいのでしょうか。
基本となるのが「社会福祉士国家試験に出題される試験科目を踏まえた勉強」です。
公益財団法人社会福祉振興・試験センターの社会福祉士国家試験ページには、先に挙げた19の試験科目が掲載されているほか、過去の試験問題なども公開されていますので、それにもとづいた学習計画を立てて勉強を行えば、効率よくピンポイントに試験合格に必要な知識を得ていくことができます。
また、大学や短大、専門学校で学んだ知識と公開されている試験科目とを照らし合わせ、苦手だと思われる科目に優先順位を振り、それにしたがって苦手科目の克服に努めながら勉強を進めていくのも効果的です。
勉強を進める上では、書店などでも社会福祉士国家試験の模擬問題集や参考書が売られており、それらを使うのもいいでしょう。加えてオンラインの予備校などもあるので、独学に不安を感じている人は、そうした講座を利用するのも手です。
「国家試験対策」を設けている専門学校もある
社会福祉士学科以外の大学や短大を卒業した人や、それ以外の学歴で相談実務を規定期間に携わった方の場合は、社会福祉士の受験資格を得るために社会福祉士養成施設(専門学校)に通う必要があります。
この専門学校の中には、カリキュラムの中に社会福祉士国家試験の受験対策が組み込まれている学校もあります。
社会福祉士が働く場所と仕事
社会福祉士が活躍する場所は実に多種多様です。
一例を挙げれば、高齢者介護施設、障がい者支援施設、児童福祉施設、学校などの教育機関、地方自治体の福祉事務所、地域包括支援センター、病院などの医療機関はじめ多岐にわたっており、それぞれの施設を利用する人の悩みに寄り添い、その人に合った最適な支援を通じて自立した日常生活や社会復帰へのサポートを行っています。
なかでも特にニーズが大きいのが「高齢者介護施設」と「障がい者支援施設」です。
以下にそれぞれの施設の種類と特徴についてまとめてみます。
【高齢者介護施設】
社会福祉士の就労先としてもっとも一般的な職場が介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、デイサービスセンターなどの高齢者介護施設です。
高齢者介護施設での社会福祉士は、「生活指導員」と呼ばれるのが一般的で、利用者(ご高齢者)およびその家族に対する相談援助のほか、入所前の説明や契約手続き、利用者の金銭管理、退所時の手続きなどを担当します。
また、施設によっては上記の業務以外にも介護職のサポート役として利用者の介護補助を行うこともあります。
〜主な高齢者介護施設〜
●介護老人保健施設
●特別養護老人ホーム
●ショートステイ施設(短期入所施設)
●デイサービス施設(通所介護施設)
●ケアハウス
●グループホーム
【障がい者支援施設】
身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者を支援する障がい者支援施設においても社会福祉士は重要な役割を担います。
障がい者支援施設には大きく分けて「身体に障がいを持つ人々を対象とした施設」「精神に障がいを持つ人々を対象とした施設」「知能に障がいを持つ人々を対象とした施設」に分かれています。
〜主な障がい者支援施設〜
●身体障害者更生施設
●知的障害者更生施設
●精神障害者生活訓練施設
●障害者授産施設
●知的障害者授産施設
●精神障害者授産施設
●福祉ホーム
社会福祉士は、今後より一層社会から強く求められていく
これら以外にも、「児童福祉施設」「母子支援施設」「学校などの教育機関」「地方自治体の福祉事務所」「地域包括支援センター」「病院などの医療機関」など、幅広い施設で社会福祉士の資格を持つ人材が必要とされており、その場所ごとに求められる支援を行っています。
これらを一例に、社会福祉士の資格を得て働くソーシャルワーカーは、福祉、介護、医療、教育、地域支援はじめ、さまざまな場所で必要とされる仕事であり、この資格を取得することは、長期間な視野でキャリアを描く上で非常に強力な武器となってくれることでしょう。
さらに国が少子高齢化や多様性を認め合う社会づくりを推進していく上で、高齢者や障がいを持つ人々、さまざまな事情により日常生活を営むのが困難な人々などをサポートする社会福祉士はより一層社会から強く求められていく、将来的にも有望な資格だと言えるでしょう。