社会福祉士の役割とは「ハンセン病の歴史から考える」
社会福祉士の仕事は?と聞かれたら、様々な回答が出てくると思います。高齢・障害・児童などといった様々な分野がある中で、共通するものは【その人の権利を守る:権利擁護】が一番の仕事になると思います。
私たちが生きる上にあたって、「人権」は尊重され、何人にも侵害する権利はありません。しかし、些細なことから「人権」は簡単に侵害されます。これは“人と人”から“国”といった様々なレベルで起こりえることなのです。
日本においても、国レベルで行われていた“人権侵害”がありました。
「人権」という言葉は多くの方が耳にしたことがあると思います。今回は、“ハンセン病”という疾患の歴史を通して、“社会福祉士を目指す”ひとりの人として、人権の大切さを改めて考えてきましょう。
1、ハンセン病(らい病)とは
2、国の施策が生活に与える影響
3、人の自由とは何か
4、社会福祉士にとっての支援とは
1、ハンセン病(らい病)とは
ハンセン病は、「らい菌」に感染することで起こる病気で、主に手足の末梢神経が麻痺すると、汗が出なくなったり、熱や痛みを感じなくなります。かつては「らい病」と呼ばれていましたが、1873年(明治6年)に「らい菌」を発見したノルウェーの医師、ハンセンの名前をとって、現在ではハンセン病と呼ばれています。
現在、ハンセン病にかかる日本人は1年間で0~数名程度で、感染しても発病することは稀です。ハンセン病は薬で治る病気といわれており、感染力も弱く、隔離の必要はまったくありません。
2、国の施策が生活に与える影響
上記に記載されているように、ハンセン病は1907年に患者の救護の名目で隔離をはじめました。3万人の患者は国辱(来日した欧米人に対して)と考え、強制隔離(無らい県運動)が実施されました。
戦前の日本の福祉は、隣人同士で助け合う相互扶助が強く、現代の日本とは逆の地域の繋がりが強い時代でした。だからこそ、村八分や密告するといったことが起きました。実際に密告した者には、2か月の給付金が支払われ、強制隔離は実行されていきました。当然ながら、抵抗する者もいたでしょう。抵抗する者には実力行使で隔離が行われたのです。
隔離された者は、はじめにクレゾール(消毒液)の湯に入らされ、名前の変更及び宗教の入信をさせられたのです。
当時、隔離施設の中で、結婚は認められていましたが、断種や中絶が行われ、次の時代に命をつなぐといった行為が拒まれていました。類似する内容として、1948年に優生保護法という法律が制定され、“不良な子孫の出生を防止”などといったものがあります。
こういった隔離施設の中で、反抗的な者は監禁室や重監房に送られ、亡くなられた方もいます。このような凄惨な状況のなか、亡くなった方に対して同施設に入所している人たちは喜んだとのことでした。理由として、亡くなったことにより、“苦しみから解き放たれる”それほど辛い時代だったのです。
3、人の自由とは何か
上記のような内容はすべて国が成立させた【らい予防法】によって約90年間、実施されていました。1996年にようやく、らい予防法は廃止され2001年に国家賠償に全面勝訴するといったことに繋がりました。
なぜ、ここまで長い年月を要したのでしょうか?様々な要因が考えられますが、他人事のように“無知や無関心”から社会が注目しなかったことも敢えて言うなら罪になります。これは一重に国が悪いということだけではなく、国民全体の責任となります。無知と無関心ほど怖いことはありません。
先にも述べたように、国家賠償請求に勝訴し、国が過ちを認めました。しかし、元患者の宿泊拒否事件や小学校入学拒否事件など差別や偏見は強く残っています。当時の患者たちも病気の辛さよりも、家族が差別を受けることがつらいと話しております。
4、社会福祉士にとっての支援とは
社会福祉士といった相談援助職に就く者は、よくこんな言葉を相手に投げかけたりします。
「今後どのような生活を送っていきたいですか?」
相手のニーズを把握するために使いがちな言葉です。このように話すことが悪いと示唆するものでもありません。ただ、改めて考えてもらいたい部分です。
“今を生きることに精一杯”な方が、どのようにして先の将来のことを考えることが出来るのか。支援を行うにあたって、相手の状況を理解することはとても大切です。同時に、全てを理解することはできません。理解しようとする姿勢がとても大切となります。
人が抱える悩みや課題は様々な要因が複雑に絡み合っています。それは、「人と人」、「人と地域」、「人と法制度」など様々なことが考えられます。
冒頭にも記載したように、社会福祉士は人権を守る権利擁護が重要な仕事の一つになります。現代においても、様々な人権侵害の課題が存在しています。相談支援も重要な仕事の一つですが、地域に対して国に対して提言や啓発活動を行い、すべての人が安心して暮らせる社会をつくっていくことも社会福祉士に求められる役割の一つです。
本校では、社会福祉士・精神保健福祉士の資格を取得することをゴールとはしておりません。資格を取得することは、あくまでも過程であり、人間としての成長やプロとして働いていくことが出来る力を養うことが出来る場所です。
学校の中だけではなく、実践的に学ぶことが出来る機会も多く設けていますので、気になった方はぜひ、1度学校へ見学にきてください。
写真は社会福祉科の学生達が見学に行った様子です。
【参考】
公益財団法人笹川保健財団(発行2022年1月1日)
国立ハンセン病資料館(東京都東村山市青葉町4-1-13)