外国籍の人とともに暮らす社会へ - 社会福祉士ができること
目次
はじめに
近年、日本では「移民」という言葉が政治の世界やニュースで語られることが増えています。治安の悪化や文化の違いへの不安といった側面が強調される一方で、実際の地域社会では、すでに多くの外国籍の人々が暮らし、働き、子どもを育てています。
私たちの生活圏に外国籍の人がいることは決して「これから起きること」ではなく、「すでに始まっている現実」です。では、その中で社会福祉士はどのように関わり、支え、共生社会をつくっていけるのでしょうか。
このコラムでは、社会福祉士が外国籍の人々の暮らしをどのように支え、日本人も含めて安心できる地域社会を形づくるためにできることを具体的に考えていきます。
日本で暮らす外国籍の人々の現状
日本に暮らす外国籍の人の数は、すでに300万人を超えています。技能実習生、留学生、永住者、国際結婚をして家庭を築いている人など、その背景はさまざまです。
しかし、彼らは日本で生活する上で多くの壁に直面しています。
• 言語の壁:病院で症状を伝えられない、役所の手続きが理解できない、学校の連絡が読めない。
• 労働環境の壁:不当な低賃金や長時間労働、契約内容を理解できないまま働かされることもある。
• 教育の壁:子どもが学校で日本語が分からず孤立する、保護者が学校からの連絡を理解できない。
• 地域社会での孤立:文化の違いから地域行事に参加しにくい、近隣住民とのトラブルに発展することもある。
こうした問題が積み重なると、外国籍の人々だけでなく日本人側も「なんとなく不安」「関わり方が分からない」と感じ、互いの距離が広がってしまいます。ここに、社会福祉士の役割があります。
社会福祉士の役割 ― 外国籍の人々にできる支援
社会福祉士は、制度や生活上の困りごとを整理し、必要な支援につなぐ専門職です。外国籍の人々を対象にすると、以下のような具体的支援が考えられます。
(1) 情報アクセスの支援
役所の手続き、医療や教育の仕組み、日本での生活ルールなど、情報が届かないことが多いのが外国籍の人々です。社会福祉士は、
• やさしい日本語に翻訳する
• 通訳や多言語のパンフレットにつなぐ
• 外国人相談窓口を紹介する
などの形で「情報の橋渡し」をします。
(2) 医療へのアクセス支援
病院に行っても言葉が通じない、保険証の仕組みが分からないといった問題があります。社会福祉士は、
• 医療通訳を調整する
• 保険制度の説明を行う
• 医療費が払えない場合の制度を案内する
といった形で「健康を守る」ための支援を行います。
(3) 子どもの教育支援
外国籍の子どもが学校生活に適応できるかどうかは、その後の人生に大きな影響を与えます。社会福祉士は、
• 学校と家庭をつなぐ通訳的な役割
• 不登校や孤立の相談対応
• 学習支援ボランティアや地域団体との連携
を通じて、子どもの成長を支えます。
(4) 労働と生活の安定支援
生活の基盤が不安定だと安心して暮らすことはできません。社会福祉士は、
• 不当な労働環境にある人を相談機関へつなぐ
• 生活困窮支援制度やNPOを紹介する
• 雇用主や地域との調整役となる
ことで、働く人の生活を守ります。
日本人にとっての安心 ― 共生社会の意味
外国籍の人を支えることは「外国人のため」だけではありません。地域に暮らす日本人にとっても、安心や安全につながります。
例えば、外国籍の親が学校の連絡を理解できなければ子どもは孤立しますが、そこを社会福祉士が支えることで学校全体が落ち着きます。
また、生活に困窮した外国籍の人が孤立すると犯罪やトラブルにつながることもありますが、社会福祉士が早期に支援につなげることで未然に防げます。
つまり、社会福祉士の役割は「外国人を助ける」ことではなく、「みんなが安心できる地域をつくる」ことにあります。
具体的なケースから見る社会福祉士の関わり
ケース1:医療の場面
外国籍の母親が日本語を十分に話せず、子どもの発熱で病院に行ったが症状が伝えられず不安を抱えていた。
→ 社会福祉士が医療通訳サービスを紹介し、母親に「どこに相談すればいいか」が分かったことで安心感が生まれた。
ケース2:学校の場面
外国籍の小学生が授業についていけず、不登校になりかけていた。
→ 社会福祉士が学校と家庭をつなぎ、地域の日本語学習ボランティアを紹介。子どもは少しずつクラスに戻ることができた。
ケース3:労働の場面
技能実習生が長時間労働で体調を崩していたが、雇用主に言えなかった。
→ 社会福祉士が労働相談窓口につなぎ、医療や生活費の制度を紹介。本人の生活が安定しただけでなく、同僚たちも安心して働けるようになった。
高校生や保護者の皆さんへ ― 社会福祉士を目指す意味
高校生や中学生のみなさんにとって、外国籍の人の支援はまだ遠い話に感じられるかもしれません。しかし、将来みなさんが働く職場、子どもを育てる学校、暮らす地域には、必ず外国籍の人がいます。
そこで「どう関わるか」を考え、支援できる専門職が社会福祉士です。
保護者や先生にとっても、外国籍の人の支援を通して「社会福祉士」という職業の社会的な必要性を理解していただけるはずです。社会の多様性が広がるほど、困りごとは複雑になります。その中で、安心できる暮らしを支える専門職の価値はますます高まっています。
東京福祉専門学校社会福祉科では自分自身が興味のある領域に関して深く学ぶことができる「専攻」があります。上記のような外国籍の方々を支えるということについては総合福祉専攻で学ぶことができます。西葛西で生活をする外国籍の方たちとの関りを通して困っていることを聴いたり、具体的な方法を紹介したりするなど実践的な学びをしていることが特徴です。
東京福祉専門学校社会福祉科の各専攻はこちら
児童福祉専攻
医療福祉専攻
総合福祉専攻
おわりに
「移民」「外国人労働者」といった言葉が政治やメディアで議論されるとき、どうしても不安や対立が強調されがちです。しかし、実際の地域社会では「同じ町で暮らす人」として、外国籍の人々がすでに存在しています。
社会福祉士は、その人たちが安心して暮らせるように支えるだけでなく、日本人にとっても安心できる共生社会を形づくる重要な役割を担っています。
外国籍の人を支えることは、私たち自身が安心して暮らせる地域をつくること。
社会福祉士は、その「橋渡し役」として、これからますます必要とされる存在です。