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ソーシャルワークとスポーツの関わり

はじめに

2025年11月、東京で開催されたTokyo 2025 Deaflympicsは、聴覚に難しさのあるアスリートたちが世界中から集まり、身体能力と情熱をぶつけ合う場となりました。あの大会を見て、「スポーツ × 障害」の可能性、そして「支える人」の存在に、これまでとは異なる見方をした人も多いと思います。ここでは、デフリンピックの“華やかな舞台”の裏側で、実際にアスリートや観客を支えた人たち(その多くは、まさにソーシャルワーカー的な役割を担っていました)のエピソードを通し、「福祉」だけじゃない、“人生の生きがいを支えるソーシャルワーク”を考えてみたいと思います。

デフリンピックとは? そしてなぜ「支える」が必要か

デフリンピックは、聴覚に障害のある/聴覚がうまく機能しにくい人たちのための国際スポーツ大会で、世界中の“ろう者”アスリートが集まります。補聴器などを使わずに競技に臨み、音に頼らず“見て・感じて”プレーする。陸上、水泳、サッカー、バスケットボール、テニス、卓球など、オリンピックのような多彩な種目があります。

でも、聴こえにくさがあるからこそ、競技だけでなく「情報の受け取り方」「コミュニケーション」「安心して暮らす環境」など、多くの配慮が必要になります。大会をスムーズに行うために、そしてアスリートが最大限自分の力を発揮できるように、その“支え手”が不可欠なのです。

 

デフリンピックを支える「手話通訳・支援者」の役割 まさにソーシャルワーク

 

通訳・情報保障としての支援

 

デフリンピックでは、世界中から来るろう者アスリートや観客のために、多言語、あるいは国によって異なる手話に対応する体制が敷かれています。たとえば、 Nippon Foundation Telecommunications Relay Service(日本財団電話リレーサービス)は、大会期間中、外国から来た手話使用者のために「電話リレーサービス」を提供。アメリカ手話(ASL)、オランダ手話(NGT)、韓国手話(KSL)などに対応し、手話での通話を可能にしました。

また、国内の会場では、 JIIGA(日本国際手話通訳・ガイド協会)などの通訳スタッフが、アスリート・観客・大会スタッフをつなぐ重要な役割を担いました。大会では、公式コミュニケーション手段として International Sign(国際手話)が用いられています。たとえば、手話通訳者の一人である Ryoji Miura さんは、「国際手話を通じて世界中のろう者がつながる喜びを、多くの人に知ってほしい」と語っています。

このような「言葉が通じない」「情報が届かない」という壁を取り除く働きは、まさにソーシャルワーカーの「情報保障」「コミュニケーション支援」の延長線上にあると言えます。

精神面・心理的サポート ― スポーツの舞台を支えるケア

スポーツの国際大会は、技術や体力だけでなく、メンタルの強さも問われます。これは、聴覚に障害があるアスリートにとって、特に重要です。なぜなら、普段から「聞こえない」「伝わらない」ことでの不安やストレスを抱えがちだからです。そこで、国際的には「メンタルパフォーマンス」や心理支援を専門とするチームが支えに入る例もあります。

たとえば、 USA Deaf Sports Federation は、東京大会に向けて初めて「Performance Psychology team(精神/心理サポートチーム)」を立ち上げ、聴覚に障害のあるアスリートのメンタルケアを行いました。チームには、ろう者でありスポーツ経験者、さらに臨床ソーシャルワーカー(または心理カウンセラー)としての資格を持つメンバーも含まれています。

こうしたサポートは、単に「通訳として言葉をつなぐ」だけでなく、「心の不安」「緊張」「孤独感」「国際大会ならではのプレッシャー」を受け止め、アスリートが最大限自分の力を発揮できるようにする――まさにソーシャルワークの“心理的支え”の領域です。

生活の安心を支える ― 環境整備と多様な支援者の協力

大会期間中には、選手や関係者が安心して過ごせるよう、住まいや移動、食事、通訳の対応など、さまざまな支援が必要になります。実際に、東京の自治体や大会ボランティアでは、イベント運営スタッフ向けに手話の研修を実施。会場の案内、緊急時の対応、スポーツ施設の利用など、多くの場面で「きこえない人にも配慮した運営」を徹底しました。

こうした支えがあって初めて、聴覚に障害のある人たちが「安心して」「尊厳を保って」「スポーツに集中できる」環境がつくられます。そして、それらを設計し、支え、つなげる仕事もまた、ソーシャルワーカーに通じる役割だと言えるでしょう。

生の声 ― トークセッションから見えた“支える人”の想い

大会前、東京ではあるトークイベントが開かれました。テーマは「ふたつの世界をつなぐ存在 ― 手話通訳士の魅力」。このイベントには、手話通訳の第一線で活躍する通訳者たちが登壇し、日常の通訳から国際大会の現場まで、普段は見えにくい「通訳士・支援者」の仕事について語りました。

この場で語られたのは、たとえば――

  • 「聞こえる人の世界」と「聞こえない人の世界」の“間”に立って、言葉をつなぐ難しさと、そこに立つ責任
  • 通訳・支援の仕事を通して、“誰一人取り残さない社会”を目指す思い
  • 目立たないけど、大会を成立させるためには欠かせない、“縁の下の力持ち”的な役割

――そんな言葉でした。観客や選手だけでなく、支援者・通訳者・スタッフにも、強い「誰かを支えたい」「誰かのパフォーマンスを支えたい」という気持ちがあるのです。

なぜこのような支援は“ソーシャルワーカー”的か ― 福祉の枠を越えて

ここまで見てきたように、デフリンピックの現場には――

  • 手話や国際手話による情報保障
  • 国際大会における通訳・多言語対応
  • メンタルケア、心理的サポート
  • 生活環境整備・安心できる運営体制

といった、さまざまな支えがあります。これらは、「福祉施設で高齢者や障害者を支える」という従来の“福祉のイメージ”だけではとらえきれません。スポーツ、国際大会、イベント運営、文化の場――あらゆる生活の場で、「困っている人」「配慮を必要とする人」と、その人を取り巻く社会を“つなぐ”人が必要になるのです。

この点で、ソーシャルワーカーは「福祉の現場」にとどまりません。むしろ、「福祉」という言葉を超えて、「誰もが安心・安全に、尊厳を保ちながら、自分らしく生き、挑戦できる社会」をつくるための“架け橋”になれる職業です。

高校生のみなさんにも身近な“支え”のカタチ

「スポーツ × 支援」と聞くと、「遠い世界」のように思うかもしれません。でも実は、みなさんの身近な学校生活、部活動、サークル活動、友達関係、趣味の場にも、“支える”“支えられる”場面はたくさんあります。

たとえば――

  • 部活で、ケガした友達のそばにいて励ます
  • 新しく入ってきた人に声をかけて、活動に入りやすくする
  • 話しにくそうな仲間や、友達として馴染みにくい人に寄り添う
  • 活動の工夫(情報を掲示する、みんながわかる説明をする、配慮をする)を考える

――こうした身近な行動も、「誰かの生きがいや居場所を支える」という意味では立派なソーシャルワークです。

もし、将来「人のためになる仕事」を考えている人がいたら、“福祉施設だけじゃない”という選択肢がある。支援は、病院や施設、行政だけじゃなく、スポーツ、文化、イベント、教育――どこにだってあるのです。

終わりに ― 未来へつながる“支える人”として

Tokyo 2025 Deaflympicsは、世界中の聴覚に難しさのあるアスリートが、その身体能力と情熱をぶつけ合った場であると同時に、私たちの社会に「誰一人取り残さない」「多様性を受け入れる」「支え合う」という大切なメッセージを投げかけてくれました。

その裏側にいた通訳者・支援者・ボランティア――彼らの姿は、「ソーシャルワーカー=福祉施設で働く人」という固定観念を壊してくれました。人が輝く場所、人が安心して過ごせる場所、人が挑戦できる場所――そうした「場」を支えるのも、またソーシャルワークなのです。

みなさんが将来、どんな道に進むにせよ、「誰かの“当たり前”を支える」「誰かが安心して挑戦できるようにする」「多様な人たちをつなぐ」という考えは、人生を通して大きな力になります。そして、スポーツや文化、学校、地域――どんな場でも必要とされる力。だからこそ、ソーシャルワークの可能性は、どんどん広がっていくのだと思います。

東京福祉専門学校社会福祉科では、3年次から専攻に分かれて興味や関心のある分野について探求することができます。総合福祉コースでは障害を持った方を支えることについても深く学ぶことができます。スポーツを通して生きがいを支える仕事に興味がある方、お待ちしています!

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