コラム

災害時の社会福祉士の役割について

災害派遣福祉チーム(DWAT)の役割

2024年1月1日午後4時10分ごろに、石川県能登半島にて最大震度7の揺れを観測する大地震が発生しました。1995年に阪神・淡路大震災、2011年東北地方太平洋沖地震と我々の生活を脅かす地震は多く起こっています。

地震の他にも、記憶に新しいところでは2024年9月に奥能登豪雨によって生活は更に過酷なものへと追いやられました。

こういった災害に対して、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)DMATは多くの方が認知しているのではないでしょうか。災害は、人の命を脅かすものだけではなく、生活を脅かすものとなっています。震災によって家屋を失うもの、職を失うもの、家族を亡くすものと私たちが当たり前のように送っている生活を一瞬にして無に帰すものが災害です。こういった危機的状況に対して、災害派遣福祉チームとして、DWAT(Disaster Welfare Assistance Team)の存在があります。DWATは、大規模災害発生時に避難所に派遣され、避難生活を送る要配慮者に対し福祉的な支援活動を行うチームです。このDWATは、社会福祉士のほか、介護福祉士、保育士、ケアマネジャー、リハビリ専門職などで構成されています。

今回の能登半島地震被災者支援では、石川県社会福祉協議会が取り組む「被災者見守り・相談支援等事業」として各都道府県に在籍する社会福祉士へ募集がかかり、私自身も千葉県社会福祉士会の一員として参加させていただきました。

この活動の取り組みは令和6年3月から開始し、全国から多くの社会福祉士が現地にて活動を行ってきました。活動目的として、被災前とは大きく異なる環境に置かれている被災者に対してそれぞれの環境の中で安心した日常生活を営むことが出来るよう、孤立防止等のための見守り支援や日常生活上の相談を行ったうえで各専門相談機関へつなぐ等の支援を行っています。実際に、金沢市内等のみなし仮設住宅に入居している避難者を訪問し、見守り支援や日常生活上の相談、専門機関等へのつなぎ支援などを行います。

私自身も、この活動を11月13日から15日までの3日間活動させていただきました。活動する中で、2人1チーム(多い時には3人1チーム)で活動し、石川県在住の社会福祉士の方以外にも、奈良県,兵庫県,広島県など様々な地域で活躍されている方と行動を一緒にしました。参加される方は、医療ソーシャルワーカーのほか、スクールソーシャルワーカー、女性支援といった多岐にわたるバックグラウンドを持つ方々で、それぞれの専門性と知見をもって訪問活動が行われています。

実際に活動していく中で、私自身が印象に残っていることは3点あります。それは、アウトリーチの重要性孤立の怖さアセスメント能力です。

アウトリーチの重要性

ソーシャルワーカーに限らず“相談”という場面においては、相談者が相談場所に訪れるという構図です。生活上に困っている方で力のある方は、相談しようと思い行動に起こすと思います。しかし、すべての人が行動に起こすとは限らないということです。なかには、自分自身が生活に困っているということは感じていない方や、我慢をする方もいらっしゃいます。訪問の中でも、実際に「他の人はもっと苦労しているから」という声があがり、我慢されている方もいらっしゃいました。こういったときに、ソーシャルワーカーをはじめ様々な福祉職が自ら赴いて、当事者の方々の声に耳を傾けることは、新たな課題の発見や支援の可能性を大きく広げてくれます。

孤立の怖さ

先にも述べたようにDMATやDWATが入るほかにも、国の施策等において様々な支援者活動が行われます。仮設住宅が建設され、体育館の避難所から居住地は移っていきます。みなし仮設住宅においても同様です。住まいがあることにより、衣食住はある程度の落ち着きをみせます。しかし、見知らぬ地へ移ること、人との繋がりがないこと、こういったことは私たちの生活において想像を絶するほどの悪影響を与えます。

被災者は元々住んでいた家屋を失くすだけではなく、そこにあった家族史や想いといった物的なものだけではなく、人の想いも失くしていくのです。こういったことから、「心にぽっかり穴が空いたようだ」と今まで笑顔で話していた方も、表情が一変し今にも涙を流しそうな寂しい表情を浮かべます。

私自身、ソーシャルワーカーとして一定の経験年数がありますが、今でも自分の対応を振り返り改めて難しさ感じます。この表情や言葉の後に、どういった言葉かけをすれば良かったか葛藤を感じます。ソーシャルワーク教育のなかで、最初に【受容・傾聴・共感】ということを学びますが、共感というものは果てしなく難しいものだと改めて直面したことを感じます。

アセスメント能力

先にも述べたように、多くの方は我慢し、悩みを表出しない方も多くいられます。一見すると、何も問題なく生活を送っているような方でも、対話を通していくと、さりげない一言を発することがありました。このときに、そのさりげない一言を聞き逃さず、掘り下げていく力は身につけていかなければいけないと個人的には感じております。

「何か困っていることありますか?」の質問に対して、〇〇が困っていますと発する方は稀です。意図的に質問する力や、インテーク情報を基に面談をすすめていくこと。“ソーシャルワーカーが訪問する”という意味を考え、行うことに専門職としてのアイデンティティや意味が見いだせるのではないでしょうか。

被災者はぶつけようのない怒りや悲しみを多く抱えています。時には、攻撃的に言葉を発する方もいます。もちろん、感謝する方もいます。1月1日の発災から間もなく1年が過ぎようとしています。この1年間でどれだけの生活が変化したのでしょうか?ニュース等では見る機会が減った震災関連ですが、今も生活に苦しんでいる方は多くいます。そして、現地では、積雪の課題も次に出てくる問題です。

同行されていたソーシャルワーカーの方と話していた時の言葉を鮮明に覚えています。「災害支援やこの見守り支援は、まさにソーシャルワークで最前線だと思います」この言葉は、私自身も同じような想いがあります。

人が人に興味を失くし、社会に対して興味を失くした時こそ私たちの生活は本当の意味で崩壊を迎えるのではないでしょうか。地域共生社会という言葉がありますが、誰でもできることとして、まずは自身の隣にいる人に目を向け、声をかけることから始めてみるのも良いと思います。そして、ソーシャルワークを学び、知識と技術を身につけ社会に対して興味を持ち、ソーシャルアクションへとつなげることが出来る、人々が増えることを願います。

この度の震災に対し、心からお見舞い申し上げますとともに皆様のご無事と、能藤半島をはじめ、様々な被災地の一日も早い復興をお祈り致します。

 

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