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介護福祉士はなぜ腰痛になりやすいか

高齢化が急速に進む日本において、介護福祉士の存在は重要性を増しています。介護福祉士は毎日、利用者に寄り添い、身体的・精神的なサポートを提供する仕事を担っています。しかし、多くの介護福祉士が「職業病」といわれている腰痛に悩まされているという深刻な現実があります。なぜ、介護の現場ではこれほどまでに腰痛が多発するのでしょうか。今回は介護福祉士が腰痛になる原因を多角的に掘り下げて、腰痛にならない介護を説明していきます。

 

1.なぜ介護福祉士は腰痛になりやすいのか?

介護福祉士の腰痛は、単一の原因ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症に至るケースがほとんどです。主な原因を以下に挙げてみましょう。

  • 移乗・移動介助における身体的負荷: 介護業務の中でも、ベッドから車椅子へ、車椅子からトイレへといった利用者の移乗・移動介助は、腰への負担が特に大きい介助です。利用者の体重を支え、抱え上げる、あるいは体位を変えるといった動作は、正しい知識を習得していても、持ち上げる介助を行うことで腰部の筋肉や椎間板に大きなストレスを与えます。特に、利用者が全面的に介助を必要とする場合などは負担が増える可能性が上がります。
  • 不自然な姿勢での長時間作業: 食事介助、排泄介助、入浴介助、更衣介助など、介護の仕事は中腰や前かがみといった不自然な姿勢を長時間強いられる場面が非常に多いのが特徴です。例えば、ベッドサイドでの体位交換やおむつ交換、車椅子の利用者に目線を合わせて行うコミュニケーションなども、無意識のうちに腰に負担をかける姿勢になりがちです。これらの姿勢が長時間続くことで、腰部の筋肉は緊張し続け、血行不良を引き起こし、疲労物質が蓄積されやすくなります。これが慢性的な腰痛へと繋がります。
  • 入浴介助時の特有の負担: 入浴介助もまた、腰痛を引き起こすリスクが高い業務の一つです。浴槽への出入りを介助する際には、中腰で利用者を抱えたり体をひねったりする動作が多くなり、腰への負担は非常に大きくなります。
  • 福祉用具の不適切な使用や知識不足: リフトやスライディングボードなどの福祉用具は、介助者の身体的負担を軽減するために非常に有効なツールです。しかし、これらの用具の正しい使用方法が周知されていなかったり、そもそも施設に十分な数が配備されていなかったりする場合があります。また、使い方を誤るとかえって危険を伴うこともあり、福祉用具を効果的に活用できていない現状も、腰痛発生の一因である。
  • 腰痛予防に関する知識や技術の不足 ボディメカニクスの原則に基づいた介助技術や、正しい身体の使い方といった知識や技術を習得する機会が不足している場合も、腰痛リスクを高めます。2018年に厚生労働省が腰痛予防対策指針をガイドラインとして発出しています。この中に、腰痛になる原因は、前屈、ひねり、持ち上げる、と書いています。前屈やひねりを防ぐために、ベッドを上げることが条件になっています。ベッドが上がらない場合は、壁に手をつく、ベッドや床に膝をつくことと記載されています。しかし、未だに、ベッドや床に膝をつくことを否定している介護場面に遭遇することが多くあります。さらに、教育場面でも、同様なことが起きています。
  • 腰痛がもたらす深刻な影響は個人と職場へのダブルパンチ

介護福祉士が腰痛を抱えることは、単に身体的な苦痛にとどまらず、個人と職場の双方に深刻な影響を及ぼします。

個人への影響:QOL(生活の質)の低下、精神的な落ち込み、休職・離職リスクの増大

職場への影響:労働力の低下・サービスの質の低下、人員不足の深刻化、職場の雰囲気の悪化

2.介護福祉士の身体やこころを守るために、これからできることとは何か?

介護福祉士を腰痛から守り、誰もが安心して働き続けられる環境を整備するためには、

個人、職場、そして社会全体での多角的な取り組みが不可欠です。

  • ボディメカニクスを活用した介護技術の展開

人間の身体の動きや力学を理解し、最小限の力で効率的に介助を行う「ボディメカニクス」の知識と技術は、腰痛にならないために重要なスキルです。職員一人ひとりがこの技術を習得し、日々の業務の中で意識して実践することが重要です。具体的には、支持基底面積を広く保つ、重心を低くする、対象者に近づく、大きな筋群を使う、身体をひねらず足の向きを変える、利用者を水平に手前に引くなど、と言った原則、骨の支え方、人差し指の使い方や腕の使い方、体幹を強くできる身体の使い方、意識をすることで小さい力で大きな効果を生む方法など、身体の使い方も習得できると、最強のスキルになり、腰痛になるリスクを最小限に食い止めることが可能である。

  • 福祉用具の積極的な活用と環境整備

移乗用リフト、スライディングボード、スライディングシート、スタンディングリフト、介護用ベッドなど、利用者の状態や場面に応じた福祉用具を積極的に導入し、活用することが極めて重要です。職場は、これらの用具を整備するだけでなく、職員が安全かつ効果的に使用できるよう、定期的な研修や情報共有の機会を設ける必要があります。また、介助しやすいスペースの確保や、段差の解消といった物理的な環境整備も腰痛予防に繋がります。

  • 職場環境の改善と組織的な取り組み

腰痛予防に関する定期的な研修・教育の実施: 正しいボディメカニクスの使い方や身体の使い方の知識と技術を習得するための研修を施設の職員やボディメカニクスを熟知している研修講師に依頼するなどして、積極的に実施する。また、介護施設の利用者の方々にご協力を得て、介護福祉士が困っていることを施設研修の一環として実施していくことも有効な研修方法である、研修の目的は介護福祉士が「できないことができる」という自信をもつことである。

「ノーリフティングケア」の推進: 持ち上げ・抱え上げ介助を人力で行わず、リフトなどの福祉用具を最大限に活用する「ノーリフティングケア(持ち上げない・抱え上げない介護)」の考え方を導入し、組織全体で推進していくことも有効な対策です。

 

最後に・・・介護の価値を高め、働きがいのある仕事にするためには

介護福祉士の腰痛問題は、個人の努力だけに委ねるのではなく、社会全体で取り組むべき課題です。国や自治体は、介護現場への財政的支援を強化し、福祉用具の導入促進や、人材育成・確保のための施策をより一層推進する必要があります。また、介護職の専門性や社会的価値が正当に評価され、魅力ある職業として認知されるように、ボディメカニクスや身体の使い方など、正しい情報と知識や技術を社会全体や介護に関わる人々に発信していくことも重要である。何よりも大切なのは、介護福祉士が誇りとやりがいを持ち、心身ともに健康で長く働き続けられる環境を実現することです。腰痛予防はそのための重要な第一歩であり、利用者にとっても質の高いケアを受け続けるための基盤となります。介護は、人と人とが支え合う尊い営みです。その最前線に立つ介護福祉士が、腰痛という見えない負担に苦しむことなく、笑顔でその専門性を発揮できる日が来ることを切に願います。そのためには、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、それぞれの立場で何ができるかを考え、行動していくことが求められます。ボディメカニクスを活かした介護は現在そして未来の介護福祉士の皆さんの力になるでしょう。

 

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