心に寄り添う、精神科作業療法の世界
みなさんには、「これをしていると落ち着くな」「気分転換になるな」と感じるものはありますか?本校の学生さんからは、
・音楽を聴くこと
・絵を描くこと
・ゲームをすること
・友達と話すこと
・料理
・運動
・買い物
・アルバイト
最近では、推し活などもよくきいたりします。実はこうした“好きな活動”や“日常の作業”には、人の心を支える力があります。そして、その力をリハビリとして活用する専門職が「作業療法士」です。
このコラムでは、作業療法士の仕事について、なかでも特に、「精神科作業療法」つまりは心のリハビリについて紹介をしていきます。作業療法士はその名の通り“作業”を用いてリハビリを行っていく仕事になりますが、実際にはどのように対象者と関わっていくのか、作業にはどんな効果があるのか、心に寄り添うとはどういうことなのか、そういったことに触れていきます。気になる方はぜひ続きを読んでいってくださると嬉しいです。
精神科にも“リハビリ”がある
リハビリというと、けがや病気のあとに歩く練習をするイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし作業療法士は、身体だけでなく、「心」のリハビリにも関わっています。
精神科の病院や施設では、
・気持ちが落ち込んで学校や仕事に行けなくなった
・人と関わることが怖くなった
・生活リズムが崩れてしまった
・自分に自信が持てなくなった
そんな悩みを抱える方がたくさんいます。精神科作業療法士は、その人の気持ちに寄り添いながら、「その人らしい生活」を一緒に取り戻していく仕事です。
“作業体験”を通して、心が動く
私が作業療法士として精神科病院で働いていた際に担当していた入院患者さんのなかに、「人前で失敗するのが怖い」と話すUさんという方がいました。Uさんは病室に閉じこもり一人で過ごすことが多く、他の人と関わることを避けていました。症状は落ち着いているのに、一歩が踏み出せず、ずっと入院しているのです。
私はその方に、作業療法“お菓子作り”のプログラムを提案しました。最初は「自分にはできない」と不安そうでしたが、「まずは見学だけでも大丈夫ですよ」と声をかけ、一緒に参加することにしました。
その日行ったのは、プリン作りです。入院患者さん4人1グループで、協力し合いながら作っていきます。プログラム中ほとんど話さなかったUさんですが、グループ人数分の食器を準備するお手伝いをしてくれました。そしてみんなで出来上がったプリンを食べている中でなんと、「おいしい」と発し笑顔を見せてくれたのです。数週間後には自分から「次のプログラムも参加してみたいです」と話してくれるようになりました。その後は、お菓子作りから肉じゃが、グラタンと、複雑な料理作りプログラムにも参加し、最終的には「材料を買いに行きます」と買い物にも参加してくれました。作業療法での買い物で、Uさんはなんと約1年ぶりに、入院している病院から外に出ることとなりました。Uさんはお菓子作りという“作業体験”をきっかけに楽しさを感じ、自信がつき、再び人や社会と関わることができるようになり、結果、退院につながっていったのです。
作業療法では、このような“作業”を活用した関りをとても大切にしています。何かを「できた」という経験は、自信につながります。誰かと一緒に活動することは、安心感につながります。楽しさを感じることは、「またやってみよう」という気持ちにつながります。作業療法士は、その小さな変化を大切にし、心に寄り添いながら、一人ひとりへのオンリーワンの関わりを考えていきます。
「正解を言う」より、「一緒に考える」
精神科領域の作業療法で大切なのは、対象者をよくみて、その人のことを良く考えて、一緒に作業することです。「もっと頑張って」ではなく、「今は何がつらいのだろう?」と考えたり、「こうするべき」ではなく、
「どうしたら安心できるかな?」を一緒に探したり、一緒に作業することで、その人が「できること」「できないこと」に気づき、「どうしたらもっとやりやすいかな?」と工夫しながら伴走します。精神の病気は、けがと違って目にみえません。そのため、対象者の様子、言葉、動きの一つひとつに気を配りつつ関わっていくことが大切です。だからこそ、心理学、コミュニケーション、観察スキル、そして、作業の持つ意味や効果について学ぶ必要があります。
私が現場で働いていた時は、作業療法で
・園芸(実際に畑にでて、ネギ、茄子、トマト、サツマイモなど季節の野菜を作っていました!)
・スポーツ(ヨガ、卓球、バドミントン、フットベースボール、バレーボールなど)
・お菓子教室、料理教室
・ストレッチ、体操、ヨガ
・ものづくり(編み物、革細工、陶芸、裁縫、キーホルダーづくりなど)
・ゲーム
・買い物(バスに乗って駅前のショッピングモールに出かけるなど)
といった様々な作業プログラムを行っていました。
ただ遊ぶだけではレクリエーションとなり、それは医療ではありません。たとえば“卓球”という作業ひとつとっても、Aさんにとっては部屋に閉じこもらず規則正しい生活を取り戻すための練習、Bさんにとっては体力の回復、Cさんにとっては人と関わる練習、Dさんにとっては退院してまた仕事に復帰するため、決められた時間帯に活動し続ける時間とするため、など、対象者によって卓球の目的が変わるのです。精神科作業療法では、対象者の病状や様子をよく見て、それにあわせて作業プログラムを活用しながらアプローチを行っていきます。症状が視覚化できない分、対象者の心に寄り添い、自分の声掛けや関わり方も治療の一部として関わっていくことは難しさもありますが、対象者が再びその人らしさを取り戻していく過程をみることができるとやりがいもひとしおです。
東京福祉専門学校だからできる学び
東京福祉専門学校の作業療法士科では、“作業体験”を大切にしています。すべての授業がプチ“体験”から始まりますし、セミナーの中では教員と一緒に、
・キャンプ
・デッサン
・ギター
・料理
・ゴルフ
といった様々な“作業体験”をする時間があります。ただ覚えるだけでない授業や、様々な体験ができるカリキュラムによって、楽しみながら学ぶことや、“作業”が対象者にとってどんな意味をもつのか、どんな効果を与えるのかといった、作業を治療の手段とする方法について理解することができます。これは本校ならではのカリキュラムの特色であり、それゆえに、本校で学ぶことで、ただ作業療法士となるだけでなく、人の価値観を大切にし、人の心に寄り添いながら効果的に作業を活用するという、作業療法のスペシャリストになれるのです。
さいごに
精神科作業療法は、「心」を支える仕事です。でも、特別なことをするわけではありません。誰かと一緒に悩み、考え、一緒に作業をし、小さな一歩を喜ぶ。そんな積み重ねが、この仕事の魅力です。
もしみなさんのなかに、「人の役に立つ仕事がしたい」「誰かの心に寄り添える人になりたい」「何か作業をすることが好き」という思いがあれば、それは作業療法士の素質です。ぜひ小さな一歩を踏み出し、作業療法の世界をのぞいてみてください。本学科では、
・ボッチャ(身体のリハビリ)
・卓球(心のリハビリ)
・カルタ(高齢者へのリハビリ)
・スライムづくり(こどものリハビリ)
といった、実際の現場で行われるような作業をやってみるというオープンキャンパスを実施しています。(実際はもっとたくさんの作業体験を用意しています)ぜひ一度、本学科で実際に“作業体験”をしながら、作業の力、そして作業療法の面白さを感じてみてほしいです。みなさまの一歩を、楽しみに待っています。