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医療ソーシャルワーカーという仕事-治療だけでは支えられない人がいる-

「病院で働きたい。」
そう考えたことがある人は少なくないでしょう。
病院で働く仕事と聞くと、多くの人は医師や看護師を思い浮かべます。命を救う医師。患者さんに寄り添う看護師。テレビドラマでも主役になるのは医療行為を行う職種が中心です。
そのため、「病院で働く=医療を行う仕事」というイメージを持っている人も多いかもしれません。
しかし、病院にはもう一つ、人の人生を支える専門職がいます。
それが医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker:MSW)です。
実際に医療ソーシャルワーカーを目指す学生の中には、ドラマ『コウノドリ』をきっかけにこの仕事を知った人もいます。
「人を助ける仕事がしたい」
「病院で働きたい」
「誰かの力になりたい」
そんな思いを持ちながらも、「医師になるほどの学力に自信がない」「医学部に進学することは現実的ではない」と感じている人もいるでしょう。
そんな人に知ってほしいのが、医療ソーシャルワーカーという仕事です。
病気を治すことはできません。
手術もできません。
薬を処方することもできません。
それでも、患者さんや家族の人生を支えることができる仕事です。

『コウノドリ』が描いていたのは「命」だけではない

『コウノドリ』は産婦人科を舞台にした人気ドラマです。
主人公の鴻鳥サクラは産婦人科医として、多くの命の誕生に立ち会います。
しかし、このドラマが多くの人の心を動かした理由は、「赤ちゃんが生まれて終わり」ではなかったことにあります。
ドラマにはさまざまな家族が登場します。
若年妊娠をした高校生。
障害のある子どもを授かった家族。
育児に苦しむ母親。
経済的な困難を抱える家庭。
DV被害を受けている妊婦。
仕事と子育ての両立に悩む夫婦。
彼らが抱えている問題は、出産や病気だけではありません。
むしろ本当に苦しめているのは、
「相談できる人がいない」
「頼れる場所がわからない」
「これからどうすればいいかわからない」
という孤立です。
例えば若年妊娠をした高校生。
出産そのものよりも、その後の生活の方が大きな問題になります。
学校はどうするのか。
子どもを育てられるのか。
家族は支えてくれるのか。
生活費はどうするのか。
こうした悩みは医療だけでは解決できません。
また、障害のある子どもが生まれた家族の中には、
「この子は将来どうなるのだろう」
「自分たちだけで育てられるだろうか」
と不安を抱える人もいます。
産後うつに苦しむ母親は、
「母親なのに子どもをかわいいと思えない」
「誰にも相談できない」
と孤立してしまうことがあります。
そこに共通しているのは、病気や出産の問題ではなく、「社会とのつながり」の問題です。
そして、その孤立に気づき、人と人、人と制度、人と地域をつなぐ役割を担うのがソーシャルワーカーです。

『コウノドリ』の中で見落とされがちな存在

ドラマの中には、江口のりこさんが演じるメディカルソーシャルワーカー・向井祥子が登場します。
医師や助産師のように目立つ存在ではありません。
緊急手術をするわけでもありません。
ドラマチックな医療行為をするわけでもありません。
しかし、よく見ると向井祥子はいつも「困っている人の背景」を見ています。
若年妊娠の少女の生活。
DVを受けている妊婦の安全。
出産後の家庭環境。
経済的な問題。
育児への不安。
医師が診るのは身体です。
しかしソーシャルワーカーが見ているのは人生です。
「なぜこの人はこんな状況になったのだろう」
「この人を支える仕組みはないだろうか」
「退院後に孤立しないだろうか」
そんな視点で患者さんや家族を見ています。
実はこれこそが、ソーシャルワーカーの本質です。

病院で起きている問題は病気だけではない

私たちは病院を「病気を治す場所」だと思っています。
もちろんそれは間違いではありません。
しかし、病院には病気以外の問題もたくさんあります。
例えば脳梗塞で入院した高齢者。
治療によって命は助かりました。
しかし後遺症が残り、一人暮らしが難しくなりました。
家族は遠方に住んでいます。
介護をしてくれる人もいません。
また、がん治療を受ける40代の会社員。
長期間仕事を休むことになり、収入が減ります。
住宅ローンや教育費の支払いが不安になります。
「治療費を払えるだろうか」
「仕事を続けられるだろうか」
そんな悩みを抱えています。
さらに、小児病棟には長期入院によって学校へ通えなくなった子どもがいます。
精神科には退院後の生活に不安を抱える人がいます。
産婦人科には育児の孤立に苦しむ母親がいます。
病気は治っても、生活の問題は残ることがあります。
だから病院には、生活を支える専門職が必要なのです。

医療ソーシャルワーカーは何をする人なのか

医療ソーシャルワーカーは、患者さんや家族が抱える生活上の困りごとについて相談を受け、一緒に解決策を考える専門職です。
例えば、
・退院後の住まいをどうするか
・介護サービスを利用したい
・治療費の支払いに不安がある
・仕事と治療を両立したい
・障害のある子どもの将来が心配
・家族の介護負担が大きい
・地域で利用できる支援を知りたい
こうした相談に対応します。
利用できる制度を紹介したり、行政機関や福祉施設と連携したりしながら支援を進めます。
また、患者さんの話をじっくり聞くことも重要な仕事です。
突然病気になると、人は人生が大きく変わるかもしれないという不安を抱えます。
「仕事はどうしよう」
「家族に迷惑をかけてしまう」
「これからどう生きていけばいいのだろう」
そんな思いを受け止めながら、一緒に考えていきます。

医師が救うのは命。ソーシャルワーカーが救うのは暮らし

医師は命を救います。
看護師は療養生活を支えます。
では医療ソーシャルワーカーは何を支えるのでしょうか。
それは、
「その人がこれから生きていく人生」
です。
例えば、自宅で最期まで過ごしたいと願う患者さんがいます。
しかし家族は介護への不安を抱えています。
医療ソーシャルワーカーは本人と家族の思いを聞き、訪問看護や介護サービス、地域の支援機関と連携しながら、その願いを実現できる方法を探します。
また、経済的な理由で治療を諦めようとしている患者さんに対しては、各種助成制度や社会保障制度の利用を提案することもあります。
病気そのものは治せなくても、
安心して治療を受けられる環境をつくることはできる。
その人らしく生きられる生活を支えることはできる。
それが医療ソーシャルワーカーの仕事です。

ソーシャルワーカーは「つなぐ」専門家

高校生から
「医療ソーシャルワーカーって何をする人ですか?」
と聞かれたら、私はこう答えます。
「つなぐ人です。」
患者さんを制度につなぐ。
患者さんを地域につなぐ。
患者さんを行政につなぐ。
患者さんを学校につなぐ。
患者さんを家族につなぐ。
そして患者さんを未来につなぐ。
ソーシャルワーカー自身が問題を解決するわけではありません。
しかし、人と人、人と社会をつなぐことで、その人の人生は大きく変わります。
だからソーシャルワーカーは「つなぐ専門家」と呼ばれるのです。

この仕事に向いている人

医療ソーシャルワーカーに向いているのは、話し上手な人ではありません。
むしろ、人の話をじっくり聞ける人です。
相手の気持ちを想像できる人です。
困っている人を放っておけない人です。
また、人への関心だけでなく、社会への関心を持てる人も向いています。
なぜなら、支援は気持ちだけでは実現できないからです。
制度を知り、地域を知り、多くの人と協力しながら支援を形にしていく必要があります。

医療ソーシャルワーカーになるには

医療ソーシャルワーカーとして働く人の多くは、社会福祉士の資格を取得しています。
社会福祉士は福祉分野の国家資格です。
大学や専門学校で社会福祉を学び、国家試験の受験資格を取得します。
学ぶ内容は医療だけではありません。
子ども家庭福祉、高齢者福祉、障害者福祉、精神保健福祉、地域福祉など幅広い分野を学びます。
なぜなら、人の困りごとは一つではないからです。
病気の背景には貧困や孤立があり、孤立の背景には家族や地域の問題があることもあります。
ソーシャルワーカーは、その人の人生全体を見る力を身につけていきます。

人を助ける方法は一つではない

『コウノドリ』を見て感動した人の多くは、
「命を救う医師ってかっこいい」
と感じたかもしれません。
もちろんその通りです。
しかし、その感動の裏にはもう一つの専門職がいました。
孤立している人を見つける人。
「助けて」と言えない人に気づく人。
誰かと誰かをつなぐ人。
社会とのつながりを取り戻す人。
医療ソーシャルワーカーとは、治療ではなく「つながり」で人を支える専門職です。
病院には、病気を治す専門家だけではなく、人の人生に寄り添う専門家もいます。
もしあなたが、
「病院で働きたい」
「人の役に立ちたい」
「困っている人の力になりたい」
そう考えているなら、医療ソーシャルワーカーという仕事を知ってほしいと思います。
治療はできなくても、人の未来を支えることはできる。
そしてその支援は、ときに患者さんや家族の人生を大きく変える力になるのです。

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