医療ソーシャルワーカーとしてのホームレス支援
生活保護制度ってなに?
女優の吉岡里帆さんが、7月スタートの連続ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(カンテレ・フジテレビ系、火曜午後9時)で主演(不器用だが情に厚く、ひたむきで一生懸命な性格で、“生活保護受給者”を支援する新人ケースワーカーの義経えみる役)を務めることが決まりましたね。
ケースワーカーとは、福祉事務所の生活保護担当課で生活保護に関する業務を行う人のことを言います。
“生活保護”という言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、「実際にはどのような制度なの?」と聞かれたら、あなたならどのように説明しますか?
生活保護制度とは…
資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。
生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。
生活保護の相談・申請窓口は、現在お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です。福祉事務所は、市(区)部では市(区)が、町村部では都道府県が設置しています。
(厚生労働省ホームページより引用:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html)
生活保護には以下の種類があり、生活を営む上で必要な各種費用に対応して扶助が支給されます。
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) |
生活扶助 | 基準額は、
1. (1)食費等の個人的費用 2. (2)光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払 (本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払 (本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
今回は、この8種類の扶助の中でも、特に医療扶助についてお話したいと思います。
医療ソーシャルワーカーとしてホームレスの方と関わるということ
私は以前、上野の近くの病院で医療ソーシャルワーカーとして働いていました。
上野恩賜公園にはホームレスの方がたくさんいたのですが、その人たちが夏は熱中症や脳梗塞、冬は心筋梗塞で倒れ、救急搬送されてくることがとても多い病院でした。
ホームレスの方が救急搬送されてくると、まずは救命救急センターの看護師から私が働いていた相談室に連絡が入ります。
ホームレスの方は着ているものが清潔なものではなかったり、着替えを持っていない状態で搬送されてくることが多いので相談室では常に、退院する患者様や患者様のご家族から提供していただいた下着や寝巻き・洗面器や石鹸・歯ブラシ・オムツ等入院時必要なもの一式をセットにして保管してある、入院セットを持って病棟へ向かいます。
ご本人が、会話が可能な状態であれば病室で直接ご本人と話をします。
所持金はいくら持っているのか・医療保険には加入しているのか(ご本人の了承を得て、お財布の中を確認させてもらうことも多かったですが、大抵の場合は所持金100円以下、保険証は持っていません)・誰か連絡の取れる親族の方や友人はいるのか等必要なことをうかがいます。
全財産がお財布に入っているお金のみとなると、入院費用のお支払いをしていただくことが難しいだけではなく、治療が終わり退院した後生活をどうするのか等様々な問題が生じるため、私たち医療ソーシャルワーカーが早急に生活保護の申請を行うことになります。
生活保護の申請は通常、住んでいる地域の役所で行います。
では、自宅がないホームレスの方は、どこに申請すればいいのでしょうか?
生活保護には、現在地保護の原則が存在します。
ホームレスの方や、ネットカフェで寝泊まりしているような、決まった住所のない方が救急搬送された場合は、“救急車が到着した住所”が申請住所となります。
上野恩賜公園から救急搬送されたホームレスの方の場合は、“公園の住所=東京都台東区”に生活保護の申請を行います。
ご本人はベッド上絶対安静のことが多いため、私たち医療ソーシャルワーカーが台東区の福祉事務所に電話し、生活保護の申請相談を行います(生活保護の開始日は、遡ることは出来ないため極力入院当日に申請します)。電話で、台東区の福祉事務所の生活保護申請担当の方に、患者様が搬送されてきた時の状況や今後の入院期間の見込み・患者様からうかがった家族構成や生活歴・所持金等を伝えます(患者様ご本人が会話困難な状況の時は、患者様の状況や今後の見込みのみお伝えします)。
台東区福祉事務所の方はすぐに日程を調整し、一度病院まで患者様との面談に来てくれますのでその際は可能な限り医療ソーシャルワーカーも同席します。
後日、正式に入院日からの生活保護が決定となると、患者様の入院時にかかった費用は、医療扶助として全額支給されることになります。
医療費の支払いが解決したらそれで関わりが終了という訳ではありません。
私たち医療ソーシャルワーカーは、今度は、退院後の生活をどうするかという問題を患者様と一緒に考えて行きます。
以前、上野恩賜公園から1月の寒い日に、心筋梗塞で救急搬送されてきたホームレスの方がいました。
入院費用は台東区福祉事務所に生活保護を申請したので問題なかったのですが、病状が回復し、退院する時に「このまま、台東区福祉事務所へ行って今後のことを相談します」という約束をしました。退院して2時間後くらいに、台東区福祉事務所の担当ケースワーカーさんから私に電話があり、「◯◯さんが福祉事務所に来ない」とのことでした。
退院したら福祉事務所へ行くといいつつ、実際にはそのまま路上生活に戻ってしまう方は少なくありません。結局その方は翌日も、福祉事務所にいかなかったようです。
時が過ぎ、1年後の同じく1月に、また同じ方が上野恩賜公園で心筋梗塞で倒れ、再度救急搬送されてきました。その時は前回よりも症状は重く、ICUで絶対安静の状態でした。
話を聞くとやはり、1年前に退院してから福祉事務所へは行かずにそのまま上野恩賜公園での生活に戻っていたとのことでした。
「今度こそ、退院後の生活をどうするかちゃんと決めます」とその方も決意してくれたため、主治医に入院期間の目安を確認した後で退院後の住宅をどうするか患者様ご本人と、台東区福祉事務所の担当ケースワーカーさんと私で考えて行くことにしました。
ご本人に話を伺うと、この1年間の間に、定期的に山谷地区にある労働・福祉センターで日雇いの仕事をもらいに行っていたこと・その労働・福祉センターで都営住宅の申し込みを受け付けており、申し込みの締め切り期限が迫っていることが判りました。ご本人は、都営住宅の申し込みに行くために外出したいと言っていましたが、主治医は「病状的に外出許可は出せない」とのことでした。そこで、労働・福祉センターに電話で事情を説明し、私が代理で申し込みをする許可をいただき、申請に行きました。
抽選の結果、無事荒川区の都営住宅に入居出来ることになりました。
入院中は、台東区福祉事務所の方に色々と協力していただきましたが、退院時は荒川区福祉事務所の担当ケースワーカーさんに病院にきていただき、一緒にその荒川区の都営住宅へと患者様は帰って行きました。
患者様は退院時、「体調が万全になったら、仕事も見つけたい」と言っていました。
「何かあったらいつでも連絡して欲しい」と、患者様ご本人と荒川区の担当ケースワーカーさんには伝えておきましたが、その後連絡がくることはなかったので、今は元気になって仕事もしているのかなと信じています。
ソーシャルワーカーという仕事
ソーシャルワーカーという仕事は、相談者(クライエント)が困っていること・悩んでいることをクライエントと一緒に考えて、解決して行く仕事です。
“今”困っていることや悩んでいることだけではなく、“今後のこと”も一緒に考えていきます。これは、病院で働く医療ソーシャルワーカーだけではなく、いかなる場所のソーシャルワーカー全員に共通していることだと思っています。
安部 直美 先生
大学卒業後、精神保健福祉士を取得し、都内の病院の医療ソーシャルワーカーとして働いた後、精神保健福祉士を目指す学生の支援をしている。
座右の銘:臨機応変