児童養護施設で働く社会福祉士について
目次
はじめに:子どもを守る現場で起きていること
「児童相談所の一時保護施設が定員を超えている」
「虐待を受けた子どもの行き場がない」
こうしたニュースは珍しくなくなりました。
家庭で安心して暮らせなくなった子どもたちが向かうのが、一時保護所や児童養護施設です。
その現場の最前線で、子どもと家庭の安全を守り、環境を整える中心となるのが社会福祉士です。
しかし今、施設の受け入れ体制はひっ迫し、社会福祉士を含む専門職の負担は限界に達しつつあります。
子どもを守るための“最後の砦”が揺らぎ始めているのです。
子どもの「安全基地」が足りないという現実
――社会福祉士が支えきれないほどの相談件数
厚生労働省の統計では、児童相談所に寄せられる児童虐待相談は2023年度に約22万件。
これは30年前の50倍以上で、児童一時保護・施設入所のニーズは高止まりしています。
一方で、受け入れ先である一時保護所や児童養護施設の定員は追いつかず、
社会福祉士が連日奔走しながら受け入れ調整を行う状態です。
本来、一時保護所は子どもが安心して眠り、心を整えるための緊急避難的な場所です。
しかし今では次の受け入れ先が見つからず、長期滞在を余儀なくされるケースが増えています。
社会福祉士は子どもの状態を把握し、生活環境の調整、学校・医療との連携、保護者支援など幅広く担当しますが、
「そもそも場所が足りない」という課題は、専門職の努力だけでは埋められない領域に達しています。
現場を支える社会福祉士の葛藤と誇り
児童養護施設や一時保護所では、多職種がチームとなって子どもを支えています。
その中でも社会福祉士は“相談援助の専門性”を持った中核的存在です。
社会福祉士が担う主な業務には、
- 子どもの生育歴・背景の整理
- 虐待リスクの評価
- 親への支援計画の立案
- 行政・学校との連携調整
- 医療・心理支援へのつなぎ
- 退所後の生活支援
があります。
「日常生活の支援をする人」ではなく、
【子どもと家庭を取り巻く“全体の環境をデザインする専門家】といってよいでしょう。
夜勤や緊急対応で疲弊しても、社会福祉士が現場に留まる理由があります。
それは、子どもが少しずつ心を開き、笑顔を取り戻していく過程に立ち会えるからです。
ある社会福祉士はこう語ります。
「最初は誰とも話さなかった子が、ある日“ありがとう”と言ってくれた。
その瞬間、この仕事を続けていてよかったと心から思った。」
社会福祉士の仕事は簡単ではありません。
しかし、その一つ一つの関わりが、子どもの人生の転機になることがあります。
支援とは「寄り添う」だけでなく「環境を変える」こと
――社会福祉士という専門職の本質
社会福祉士という職業は、単に子どもに寄り添うだけの仕事ではありません。
寄り添いながら、制度を知り、環境を整え、人をつなぎ、未来をつくる職業です。
虐待や困難が起きる背景には、
- 貧困
- 親の孤立
- 精神疾患
- 生活困窮
- 社会資源の不足
など、複雑な要因が絡みます。
社会福祉士は表面的な行動の奥にある要因を丁寧に紐解き、行政・学校・医療・地域をつないで環境調整を行います。
「その子が安心して生きられる環境」をつくるのが、社会福祉士という専門職の真の役割です。
24時間テレビのチャリティーランナーが伝えた「支え合いの力」
――やす子さん・横山裕さんのエピソード
2024年と2025年の日本テレビ『24時間テレビ』では、
やす子さんと横山裕さんがチャリティーマラソンを走り、多くの視聴者が涙しました。
やす子さん
幼少期に児童養護施設で暮らした経験があり、
「支えてもらった過去を、次は誰かのために生かしたい」という思いで走りました。
全国の児童養護施設に届けられた寄付は、
図書カード、家電、生活用品、子どもたちの巣立ち支援などに活用されています。
これは、社会福祉士が日常的に行っている“必要な支援を、必要な人に届ける”仕事と構造が非常に似ています。
横山裕さん
自身の家庭の困難と向き合いながら、
「過去に支えてくれた大人たちの存在が今につながっている」と語って走りました。
二人が見せた“支え合う力の連鎖”は、
社会福祉士の実践の本質である
「支えられた人が、次は誰かを支える社会」
と深く重なります。
「誰かを助けたい」という気持ちは、社会福祉士を目指す大きな原動力
社会福祉士を志す人の多くは、
自分自身が誰かに支えられた経験を語ります。
「学校で苦しい時、相談員の先生がそばにいてくれた」
「家庭が大変だった時、児童相談所の職員が話を聴いてくれた」
「つらい経験を、誰かのために使いたい」
社会福祉士の原点は“優しさ”や“共感”です。
しかしそれだけではなく、
知識・技術・倫理観をもった専門職として、人生と社会をつなぐ力が求められます。
社会全体で子どもを支える時代へ
――社会福祉士の重要性はさらに高まっている
一時保護施設のひっ迫や児童養護施設の人材不足は、
日本社会が抱える課題の象徴です。
少子化、孤立、貧困、虐待の増加などの社会問題は、
すべて社会福祉士が対応すべき領域に直結しています。
社会福祉士は、
- 制度を理解し
- 人をつなげ
- 環境を整え
- 人生の再出発に寄り添う
“社会変革の最前線”に立つ職業です。
社会福祉士という専門性を身につけるということ
社会福祉士になるための学びは幅広く、
- 法制度
- 心理
- 医療
- 地域福祉
- 相談援助技術
- 児童への支援方法
など、体系的な専門性が求められます。
実習やロールプレイでは、
「聴く」「考える」「つなぐ」「記録する」「支援計画をつくる」
という実践的な力を習得します。
人の人生に関わる仕事だからこそ、
社会福祉士には“専門職としての確かな学び”が欠かせません。
最後に ― 子どもを守ることは、未来を守ること
――社会福祉士が社会に果たす大きな役割
いま、子どもを取り巻く環境は厳しさを増しています。
しかし、そこには希望もあります。
それは、社会福祉士の存在です。
社会福祉士は、
子どもの声なき声を拾い、
家庭の背景にある困難を理解し、
必要な支援と制度につなぎ、
人生の再出発を支えます。
やす子さんや横山裕さんが示した「支え合う力」。
その力を日常的に、現場で形にしているのが社会福祉士です。
子どもを支えることは、社会を支えること。
社会福祉士は、その未来をともにつくる専門職です。
東京福祉専門学校社会福祉科では、1年生の時に児童相談所の職員さんによる授業や児童養護施設の見学・体験実習を行っています。また3年生からはじまる専攻では児童福祉専攻のなかで、自分が感じている課題について深く調べて学ぶことができ就職にも繋がっていきます。
東京福祉専門学校社会福祉科で児童福祉を学んで、助けが必要な子どもを支える存在になりましょう。