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作業療法士の働く場所について

はじめに

作業療法と聞いて、まず思い浮かぶのはどんな光景でしょうか。
病院のリハビリ室。
ベッドサイドで患者さんと向き合い、動作練習をしている姿。
多くの人が、そんなイメージを持つかもしれません。
そして、作業療法士が働く病院には、いくつかの種類があります。
その中でも代表的なのが、「急性期の病院」と「回復期の病院」です。
急性期の病院は、病気やけがをして間もない時期に治療を行う病院です。命を守ることや、状態を安定させることが最優先され、作業療法では早い段階から身体を動かし、回復の土台を整える関わりをします。
一方、回復期の病院は、急性期を過ぎたあとに入院し、自宅や社会への復帰を目指す病院です。食事やトイレ、着替えといった日常生活動作の練習を通して、その人らしい生活を取り戻すためのリハビリを行っていきます。

私自身の、作業療法士としてのスタートは回復期の病院でした。
急性期を過ぎ、在宅復帰を目指す患者さんと関わる日々。
歩行練習、トイレ動作、着替え、入浴。
「できること」を一つひとつ増やしていく過程に、やりがいを感じていました。
ただ、実は。。。働く中で、少しずつ、心の奥に引っかかるものが出てきていたのも事実です。

回復期病院で感じていた、ある違和感

回復期病院では、「自宅復帰」が大きな目標になります。
退院までに、どこまで動作が自立できるか。
転倒リスクや安全性は守られているか。
とても重要な視点です。
でも、あるとき、こんな場面がありました。
動作としては、ほぼ自立。
評価上も、大きな問題はない。
「これなら家に帰れますね」と話していた患者さんが、ふと、こんな言葉を口にしました。
「帰ってからの生活が、ちょっと不安なんだよね」
理由を聞いてみると、
家の間取り、近所の坂道、買い物の距離、趣味の再会。
病院では見えてこなかった“生活の細部”が、次々に出てきました。
そのとき、私は思いました。
「この人の本当の不安は、病院の中では全部拾うことは難しいかもしれない」と。
もちろん、病院でできることには限界があります。
時間も、環境も、制度も。
それは仕方のないことです。
でも、だからこそでしょうか。
「もっと生活の近くで、この人を支えられたら」
そんな思いが、少しずつ、心の中で大きくなっていきました。

「生活の場」に出ていくという選択

訪問リハビリへの転職を考え始めたのは、そんな違和感が積み重なった頃でした。
正直に言えば、迷いもありました。
病院という安定した環境を離れる不安。
一人で利用者さんの家を訪問する責任の重さ。
「本当に自分にできるのだろうか」という気持ち。
まあ、簡単な決断ではありませんでした。
それでも、
「生活を支える作業療法がしたい」
その思いが、最後は背中を押してくれました。

家に行って初めてわかること
訪問リハビリを始めて、最初に感じたのは、
「情報量の多さ」でした。
玄関を開けた瞬間に目に入る靴の並び方。
廊下の幅。
家具の配置。
冷蔵庫の中身。
壁に貼られた家族写真。
病院では見ることのできなかった、その人の暮らしが、そこにありました。
「ここで毎日生活しているんだな」
そう思うと、評価の視点が自然と変わっていきます。
たとえば、
病院では問題なく歩けていた人が、
自宅では段差につまずきやすい。
夜になると照明が暗くて不安になる。
逆に、
病院では消極的だった人が、
自宅では表情が明るくなり、よく話すようになることもあります。
生活の場に来て初めて見える姿。
それが、訪問リハビリの出発点です。

「できること」より、「大事にしていること」

訪問リハビリを続ける中で、私が強く感じるようになったことがあります。
それは、
「何ができるか」よりも、「その人が何を大事にして生きてきたのか」
という視点の大切さです。
ある利用者さんは、
「もう外には出なくていいよ」
そう、少し投げやりな口調でリハビリを行なっているときに話していました。
身体の状態を考えれば、確かに無理はさせられない。
私自身も、最初はその言葉をそのまま受け止めていました。
けれど、その方のご自宅に訪問し、玄関ドアの前に到着すると、決まって玄関横にある和室の窓際に立ち、外をじっと眺めていました。
何を見ているのだろう、何を思っているのだろう。
ちょっと気になって、ある日、何気なく聞いてみました。
すると、少し間を置いてから、ぽつりぽつりと話してくれたのです。
若い頃は畑仕事が好きだったこと。
季節ごとに土を耕し、作物が育っていくのを見るのが何よりの楽しみだったこと。
土に触れている時間が、自分にとって一番落ち着く時間だったこと。
その話を聞いたとき、
「ああ、この人は“外に出たくない”わけじゃなかったんだな」
と、胸の奥が少し締めつけられるような気持ちになりました。
身体機能だけを見れば、畑に出ることは簡単ではありません。
転倒のリスクもあります。
安全面を考えれば、「やめておきましょう」という判断も、決して間違いではありません。
でも、その人にとって畑は、
単なる作業ではありませんでした。
生きがいであり、誇りであり、これまでの人生そのものだったのです。
「畑に戻ることは難しい」
それで話を終わらせるのは、あまりにも簡単でした。
だからこそ、考えました。
「どうすれば、少しでも畑に関われるだろうか」
「どんな形なら、この人らしさを守れるだろうか」
そこから、支援の方向性が少しずつ変わっていきました。
実際に畑に行くのではなく、プランターで土に触れる時間をつくる。
外の空気を感じながら、作物の世話をする。
その小さな“関わり”が、表情を変えていきました。
訪問リハビリは、
その人が大事にしていることを、支援の中心に据えやすい環境だと感じています。
生活のすぐそばで、その人の歴史や思いに触れながら関われる。
それは、とても責任のある仕事ですが、同時に、作業療法士としてのやりがいを感じさせてくれる時間でもあります。

生活に正解はない

病院では、どうしても「標準」があります。
この動作ができれば自立。
この数値なら問題なし。
一方、生活には、正解がありません。
同じ疾患、同じ年齢でも、
大事にしていることも、生活の形も、まったく違います。
だからこそ、迷います。
判断に悩むこともあります。
「これでよかったのだろうか」と振り返る日もあります。
でも、その迷いこそが、
生活に向き合っている証なのだと思うようになりました。
訪問リハビリでは、
利用者さん、家族、ケアマネジャー、他職種と話し合いながら、
その人なりの答えを探していきます。
時間はかかります。
遠回りに感じることもあります。
それでも、
「自分の生活を尊重してもらえた」
そう感じてもらえたとき、
作業療法士としての喜びを強く実感します。

地域で求められる作業療法士像

地域で働く作業療法士には、
知識や技術だけでなく、
柔軟さや想像力が求められます。
予定通りにいかないことも多いです。
天気、体調、家族の都合。
生活は、いつも変化しています。
そんな中で、
「今日はここまででいいかもしれない」
「今日は話を聞く時間にしよう」
と判断することもあります。
まあ、最初は戸惑うかもしれません。
でも、経験を重ねるうちに、
その人の生活リズムに合わせることの大切さが、少しずつわかってきます。

高校生・社会人のあなたへ

高校生の皆さんの中には、
「医療職は難しそう」と感じている人もいるでしょう。
でも、作業療法士は、
人の暮らしに興味を持てる人に向いている仕事です。
誰かの日常を想像できること。
それは、立派な資質です。
社会人の皆さんにとっては、
これまでの人生経験が、そのまま支援に活きます。
働くこと、家庭を持つこと、誰かを支えること。
すべてが、作業療法につながっています。

作業療法士として、生活のそばにいるということ

回復期病院での経験があったからこそ、
今の訪問リハビリの仕事があります。
病院で培った視点と、
生活の場で得た気づき。
その両方が、今の私の作業療法を支えています。
作業療法士は、
その人の人生に、少しだけしか関わることのできない存在かもしれません。
でも、その少しの関わりが、
「その人らしく生きる」ことを支える力になると信じています。
もし、あなたが
人の生活に寄り添う仕事がしたいと思っているなら。
答えが一つではない世界に、少し惹かれているなら。
作業療法士という道を、選択肢の一つとして選んでみるのもよいかもしれません。

最後に

今回お話しをさせていただいた「できること」より、「大事にしていること」という内容は、実は私たちの専門学校がとても大切にしている考え方でもあります。
「できること」だけを見るのではなく、その人がどんな価値観をもち、何を大事にして生活しているのかに目を向けること。作業療法の原点ともいえるこの視点を、私たちは教育の中でも大切にしています。
その一つの例が、「作業体験」という科目です。
学生はさまざまな作業を実際に体験し、自分の身体で感じ、考える時間を重ねていきます。うまくできたかどうかよりも、「やってみて何を感じたのか」「その作業は自分にとってどんな意味をもったのか」を振り返ることを大切にしています。
また、「人の生活と作業」という科目では、人がなぜその行動を選ぶのか、どんな背景や価値観があるのかといった視点から、生活と作業の関係を学びます。目に見える動作だけでなく、その奥にある思いや人生に目を向けることで、作業療法士としての考え方を少しずつ育てていきます。
もし、あなたが
人の生活に寄り添う仕事がしたい、
誰かの“その人らしさ”を支えたい、
そう感じているなら。
私たちの専門学校で、その第一歩を一緒に考えてみませんか。

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作業療法士科 4年制【高度専門士】

高校卒業以上

国家資格:作業療法士、幼稚園教諭

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