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介護福祉士の将来性について

近年、介護福祉士の果たす役割が大きく見直されつつあります。これまでは「支援者」「実践者」としての側面が強調されてきましたが、今後は“現場のリーダー”として、ケアの質を科学的に捉え、テクノロジーを活用しながら、多様なチームを動かす存在が求められています。本コラムでは、介護福祉士の将来性と、それに伴って期待される新たな力を、ICTやロボットの活用と絡めながら紐解いていきます。

超高齢社会の到来と介護需要の増大:避けて通れない現場の課題

日本は現在、世界でも類を見ないスピードで超高齢社会へと突入しています。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、2070年には総人口が9,000万人を割り込み、全人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は39%に達すると見込まれています。特に注目すべきは、2025年から2040年にかけて、いわゆる「団塊ジュニア世代」が高齢期に差し掛かることで、75歳以上の後期高齢者人口、とりわけ85歳以上の超高齢人口が大幅に増加する点です。このわずか15年間で85歳以上人口は42.2%も増加すると予測されており、医療・介護サービスの需要は指数関数的に高まることが確実です。

一方で、介護を支える側の生産年齢人口(15~64歳)は、同期間で15.0%も減少するという厳しい現実があります。これにより、介護現場における人材不足は一層深刻化し、サービスの供給体制そのものが大きな転換期を迎えています。地域による人口構造の変化も無視できません。大都市圏では高齢者人口が増え続ける一方で、地方の過疎地域では高齢者を含む人口全体の減少が続き、介護サービスの需要と供給のバランスが地域によって大きく異なる「多極化」の様相を呈しています。これは、画一的な介護サービス提供モデルでは対応しきれない、地域特性に応じた柔軟かつ多様なサービス提供体制の構築が喫緊の課題であることを示しています。政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2025」において「全世代型社会保障」の構築を掲げ、持続可能な社会保障制度の実現を目指しています。その中で、賃上げを成長戦略の柱と位置づけ、公定価格(医療・介護・保育・福祉等)の引き上げなどを通じた処遇改善を進め、介護人材の確保に努めていますが、抜本的な解決には介護サービス提供のあり方そのものの変革が不可欠なのです。

 

科学的介護と「見える化」で問われる専門性

2024年度の介護報酬改定では、「LIFE(科学的介護情報システム)」の活用が重視され、記録・分析・フィードバックに基づく科学的介護の実践が強く求められています。これは、長らく「経験と勘」に依存しがちだった介護ケアの根拠を、「データと分析」に基づいた客観的なものへと移行させる大きな流れを意味します。

介護福祉士は、日々のケアの中で利用者のわずかな変化や特徴を「観察」し、それを正確に「記録」する役割を担います。この観察力と記録の精度が、LIFEなどの仕組みを通して数値化され、ケアの質の評価や、さらには施設・事業所の加算評価、ひいては介護福祉士自身の処遇改善にも反映されるようになってきました。つまり、「ケアの質を客観的に可視化できる力」と「その質の向上を継続できる力」、そしてそのプロセスをデータとして管理し活用できる力が、介護福祉士の新たな専門性として明確に再定義されているのです。

これは、介護福祉士が単に与えられたケアを実践するだけでなく、利用者個々の状況を深く理解し、多角的な視点からアセスメントを行い、その結果をデータとして「見える化」することで、チーム全体のケアの方向性を決定づける「司令塔」としての役割を果たす上で不可欠なスキルとなります。データに基づいてケアの効果を検証し、改善サイクルを回すことで、より利用者本位の質の高いケアを提供することが可能になります。

テクノロジーとの協働で広がる専門職の役割

見守りセンサー、排泄検知システム、移乗支援ロボット、記録の電子化――今や介護の現場では、ICTやロボットといったテクノロジーの導入が加速しています。一方で、「テクノロジーが人の仕事を奪うのではないか」という不安も根強く存在します。しかし、実際にはその逆です。厚生労働省の検討会資料でも「テクノロジー活用等による生産性向上」が強く謳われているように、テクノロジーは介護福祉士の仕事を“代替”するのではなく、“拡張”するためのツールとして位置づけられています。

例えば、センサーが利用者の異常を早期に発見し、記録アプリが即座にその情報をチーム全体で共有することで、ケアの質とスピードが飛躍的に向上します。これにより、介護福祉士は定型的な見守り業務から解放され、より専門的で、人間にしかできない業務――利用者の心に寄り添う傾聴、個別ニーズに応じたコミュニケーション、非日常の楽しみを提供するレクリエーションの企画など――に、より多くの時間と労力を割くことが可能になります。移乗支援ロボットの活用は、介護福祉士の身体的負担を大幅に軽減し、腰痛などの職業病リスクを低減するとともに、より安全かつ尊厳を保った介助を実現します。

重要なのは、こうした技術をただ“使う”だけでなく、“活かす”こと、つまり現場の状況や利用者の特性に合わせて、最適なテクノロジーを選択し、導入し、その効果を最大限に引き出すことのできる応用力です。ICTやロボットを単なる機械としてではなく、介護福祉士の「分身」や「パートナー」として現場に根付かせ、利用者の生活に自然に溶け込ませる力が、これからの介護福祉士には強く求められています。この「活かす力」こそが、介護福祉士がテクノロジーという新たな道具を手にし、現場の「司令塔」として采配を振るうための鍵となるのです。

DXを牽引する介護福祉士のキャリア展望

これからの介護福祉士は、現場の実践者であると同時に、“変革を起こす人”、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引するリーダーとしての役割も期待されます。先進的な施設ではICTやロボット技術の導入が進み、介護福祉士がそれらを現場で使いこなす「活用者」として活躍しています。彼らは、デジタルデバイスを用いた記録入力や、センサーから送られてくるデータのモニタリングなど、日々の業務にテクノロジーを組み込むスキルを着実に身につけています。

前述した通りの未来が確実に来ることを考えれば、これらのスキルは一日でも早く日本のスタンダードにならなければならないのです。なぜなら「少数精鋭での介護」で成果を上げ続ける体制が求められているからです。しかも今後は、テクノロジーを現場目線で提案し、導入・定着までを一貫して担う「推進者」としてのスキルが不可欠となります。例えば、単にセンサーデータを参照するだけでなく、そのデータを分析して利用者のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上にどう活かすか、具体的なケアプランに落とし込む力。あるいは、ICTツールを活用してチーム全体の業務フローを最適化し、利用者満足度向上と職員の労働負担軽減を両立させる視点などが重要になります。これは、介護現場における生産性向上を目的としたテクノロジー導入の政府方針とも合致するものです。

実際に現場では、「LIFE推進リーダー」「DX担当」「ICT教育係」「ロボット導入コーディネーター」など、介護福祉士が新たに担う専門的な役職や役割が増えつつあります。介護とITの両方に精通した人材は、施設経営の効率化や、複雑化する地域包括ケアシステムの構築においても不可欠な存在となり、介護福祉士としてのキャリアパスは着実に広がりを見せています。「賃上げと人手不足解消の好循環に向けた政策対応」に関する資料でも、「アドバンスト・エッセンシャルワーカー(高賃金な高度現場人材)の創出」が言及されていますが、介護福祉士はまさにこの概念を体現する、現場力と品質力を兼ね備えた「未来のエッセンシャルワーカー」として、DX時代に応じてそのキャリアを多様化させているのです。

外国人介護福祉士とICT・DXの交点にある可能性

いまや日本の介護現場において、外国人介護人材の存在は不可欠であり、多文化共生社会の象徴とも言えます。中でも介護福祉士の国家資格を取得した外国人は、日本語能力と高い専門知識を併せ持ち、長期的にチームの中核として活躍が期待されており、その役割は年々広がりを見せています。

また、ICTを活用した業務マニュアルの多言語化や、翻訳機能・コミュニケーション支援ツールの整備は、外国人職員が業務にスムーズに適応できる環境を整える上で極めて有効です。これは、外国人職員の早期戦力化を後押しするだけでなく、チーム内の多様性を高め、異なる文化背景を持つ職員が互いの強みを活かし合いながら協働することで、職場の柔軟性や対応力を強化する効果もあります。

さらに、日本で介護福祉士として得た高い専門知識や、DXを活用した実践経験を母国に持ち帰り、現地の介護制度の発展や教育に貢献する「国際的な知識循環」の流れも見られます。外国人介護福祉士は、まさに国際的な人材循環とDXが交差する点に立ち、日本の介護を未来へと繋ぐ架け橋となる存在なのです。

「介護に未来はない」は思い込みにすぎない

今、介護福祉の制度面では大きな変革が進行しています。処遇改善加算や生産性向上加算、そしてLIFEなどを通じて、エビデンスに基づく良質なケアが正当に評価され、それを提供できる専門人材には相応の処遇がなされる流れが着実にできています。これらの制度改革は、介護福祉士の存在意義と専門性が社会全体で再認識され、その価値が高まっていくことを裏付けています。

介護福祉士は、単なる肉体労働者ではありません。利用者一人ひとりの生命、生活、尊厳を支える「人間尊重」のプロフェッショナルです。そして、これからの介護福祉士は、ICTやデータを活用して「科学的介護」を実践し、倫理的な視点を常に持ちながら、利用者の生活全般を支援し、さらに地域共生社会の実現にも貢献する、新たな時代の「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」へと進化しつつあります。彼らは、個別ケアの深い専門性と、多職種連携を円滑に進める調整力、そしてテクノロジーを使いこなす現代的なスキルを融合させた、“未来の専門職”なのです。

おわりに――“未来の専門職”としての進化へ

厚生労働省の審議会でも、介護福祉士は「地域生活を支える専門職」として、施設内にとどまらず、在宅や地域での支援、さらには利用者の社会参加の促進まで担う、より広範な役割を持つ存在として再定義されています。

ICTやロボットと協働し、科学的介護を推進し、多様なバックグラウンドを持つチームを導く。その中核を担うのが、まさに介護福祉士です。彼らは、現場に立ち、複雑な制度を理解し、個々の利用者に深く寄り添いながら、データに基づいた最適なケアを設計し、実行し、評価する。そして、テクノロジーを駆使して業務効率を高め、より人間らしいケアのための時間を創出し、未来の介護のあり方を創造する――そんな“実践知と先端技術を融合させたプロフェッショナル”が強く求められています。

こうした“未来の専門職”としての進化を支えるためには、日々の現場経験に加えて、体系的かつ先進的な学びの機会が不可欠です。東京福祉専門学校では、介護現場の変化をいち早く取り入れるための産学連携教育を進めております。科学的介護やICT・ロボット技術といった最新トピックも積極的に取り入れ、介護ロボットやICTに触れる機会が多くあります。これからの時代の介護を見据えた多職種連携やデータ活用を視野に入れた学びの環境は、卒業後に“現場の司令塔”として活躍する力を着実に育てています。

 

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