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高齢者の暮らしを支える仕事~作業療法士とは~

年齢を重ねると、今まで普通に出来ていたことが少しずつ難しくなることがあります。
私が訪問リハビリや施設で働いている時にこのような悩みをよく聞きました。
「なんだか足腰が弱ってきて、立ち上がることや、しゃがむのがつらい」
「買い物に行きたいけど、一人で出かけるのは怖い」
「家族に迷惑かけたくないけど、トイレも難しくなってきた」
「ずっと一人で家にいて、どこにも出かけられない」
「自宅に戻りたいけど・・・・・どうしたら帰れるのかしら」

高齢者分野の作業療法ではまず対象者の話をよく聞いて、必要なリハビリを提案・実施するだけでなく、必要に応じて自宅改修の提案や関係職種との連携など包括的なコーディネートが大切であると考えています。

一般的に作業療法士という仕事はあまり馴染みがないかもしれませんが、医療・福祉・介護の現場でとても重要な役割を果たしています。
ここでは、「作業療法士ってどんな人?」、「高齢者をどう支えているの?」といった疑問を少しでも解決できるように紹介していきます。

作業療法士になるには?

 

高齢者分野の作業療法士の役割

高齢者を対象にした作業療法士の仕事は、とても幅広く、『その人がその人らしく生きるための手助けをすること』が中心です。

1.「できること」を増やすリハビリ

高齢になると、筋力が落ちたり、病気やけがで動きにくくなったりすることがあります。
作業療法士は、立ち上がる・歩く・手を動かすといった動作の練習をしたり、体力をつける運動を取り入れたりして、基本的な生活の動きをサポートします。

私が初めて勤務した施設で、当初歩けていた利用者様が入院から戻ってきたときには車いすになり、日中はぼんやり過ごすという方がいらっしゃいました。
なにをしても無反応な状況でしたので、簡単な体操から始めました。1週間は手取り足取りでしたが、2週間目くらいから自分で少し腕を上げるといった自発的な行動が見られ、3週間目には動ける範囲が拡大しました。それから基本的な動作での立ち上がる練習など、徐々に段階を上げていくと、なんと!!自ら車いすに移動することができようになりました。その後は見違えるように活発になりましたがその反面、もともとあった認知症によりご自身の行動を制御できないという問題も発生しました。家族は元気になった姿を喜ぶと同時に少し困ったような様子もあり、私も一筋縄ではいかないリハビリの難しさがあることを実感しました。

2.日常生活を再び自分の力で

ごはんを食べる、トイレに行く、着替えをする、掃除をするなど「ふつうの生活」を自分の力で行えるようにするのが作業療法士の大切な役割です。
必要に応じて、特別な道具(自助具)を使ったり、やり方を工夫したりして、「できない」ことを「できる」に変えていきます。
私が訪問リハビリ2年目の時の話です。脳梗塞によって左半身に麻痺がある70代後半の女性で、自宅退院をするにあたり訪問リハビリの依頼がありました。身体障害は比較的重く、入浴はデイサービスの利用を勧められていました。しかし、施設で異性に介助される恥ずかしさから自宅で入浴をすることを強く希望していました。そこで左半身の麻痺があっても入浴できるよう、自宅のお風呂の環境を調整しました。ケアマネージャー、福祉用具業者、ご家族と連携を図り、手すりやシャワーチェアーの選定や設置位置の検討をしました。またケアマネージャーに同性のヘルパーを手配してもらいました。このように環境調整をしてできないことをできることに変えていくことは作業療法士の醍醐味でもあります。それからというもの、トイレ動作が一人でできるようになったり、外出時の車の乗り下りがスムーズにできるなどご自身で出来ることが増えていきました。私が退職するときは涙を流して感謝され、作業療法士になってよかったと思う瞬間でした。

3.認知症の人の楽しさを探す。

高齢者になると、認知症のよる記憶や判断力に不安を抱える人も増えてきます。作業療法士では、そうした方々が安心して生活できるよう、頭の働きを保つ活動を取り入れたり、生活リズムを整えたりします。

勤めていた施設では「書道」をリハビリで取り入れていました。年の功で字がとてもきれいな方ばかりですが、認知症を患うと難しい漢字が書けなくなることがあります。その場合は、ひらがなだったり簡単な漢字の見本を用意して行います。ある時、毎日ほぼ会話もせず、いつもただ座っているだけの利用者様がいました。時間がたつと姿勢が崩れ、職員に姿勢を直されるということを繰り返していました。その方の好みは不明でしたが書道なら昔経験したことがあるのではないかと思いを声掛けました。はじめ反応はありませんでしたが道具を目の前におくと書道に参加して下さいました。活動中は姿勢の崩れが減少し、終了時には少し自信に満ちた表情をされました。それから書道のお誘いは笑顔で応じるようになり、楽しみの一つとなりました。

4.心の元気も大切に

体が思うように動かなくなると、気持ちも落ち込みがちです。作業療法士は、ただ動きを取り戻すだけでなく、「生きがい」や「楽しみ」を見つけるサポートもしています。

どこの施設でもそうですが、運動会や祭りなるものがあります。普段の生活は介助が多い方でも、運動会ではこんなに動けるのか!!とビックリさせられることがありました。例えば、普段は声が出ない人に開会宣誓という役割をお願いすると、小さいながらもその人なりに声を出す努力をしており、その姿に私は驚きました。また、いつも活気がないおじいちゃん、おばあちゃん達が、一生懸命手を伸ばして大玉を送ったり、一生懸命に玉を投げたりしています。またお祭りの盆踊りでは、昔を思い出しながら指先までしっかり手を伸ばして楽しまれています。このような姿を見ていると、普段のリハビリよりも効果があるのではないかと思ってしまうこともあります。スタッフの人手を考えると頻回に行事は出来ませんが、毎日の作業療法の中で利用者様を集めて集団で体操をするなど、「場を楽しむ」、「みんなで楽しむ」という機会を提供するようにしています。体・心・記憶(認知面)の三方に良い効果があるのではないかと考えています。

 

高齢者の作業療法士ってどんな人

 

高齢者分野では「人に寄り添う気持ち」と「その人の力を信じる」ことと「その人の困っていることを傾聴する」というのが大切になります。
私は極力否定をせず、良いところだけみて伸ばすことを心掛けてきました。
高齢者は私たちの人生の先輩です。そのため、「褒めるなんておこがましい」と思っていた時期もありますが、何か出来たときに褒めたり、一緒に喜ぶということに年齢は関係ないと今は感じています。また、高齢者の分野では対象者のニーズやペースに合わせていると「これはリハビリか?」と疑問に思う事が多々あります。しかし、どんな状況であれ根気よく向き合って、出来たときは喜びを分かち合う、この繰り返しがその人が希望する生活を獲得することに繋がると思うのです。日々のリハビリは些細なことかもしれません、ペースはゆっくりかもしれません、それでも一緒に一歩一歩積み重ねていくことが高齢者の作業療法士に必要な資質であると考えます。

 

東京福祉専門学校ではどんなことが学べる?

これまで話したように高齢者の作業療法では対象者に寄り添い、その方の楽しみや隠された能力を発揮するために様々な引き出しを持っておく必要があります。そのような能力をつけるため東京福祉専門学校ではたくさんの作業体験を用意しています。例えば1年生は全学年参加のスポーツ大会を企画します。参加者が安全に楽しく、学年間交流が持てるような内容を考えます。これは将来、現場で行うイベントの企画力に繋がります。作業体験は木工や陶芸など、全国の作業療法士養成校で実施している活動はもちろん、楽器演奏や絵画等の芸術、スポーツ、キャンプなど多岐に渡ります。「ひとが好きな作業だけひとの価値観がある」という考えのもと、たくさんの作業を体験を通して対象者様に寄り添うえる力を養います。また、学校で行う企画や作業体験は同級生あるいは先輩・後輩・教員と一緒に進めるため、他者と協働する力が身につきます。

 

最後に・・・

日本は超高齢化社会に突入しており、今後も支える高齢者が増えてくると考えられます。そんな高齢者は何歳になっても元気になれるし、能力をまだ隠しもっているかもしれません。
・「できない」を「できる」に少しでも変えていく
・「不安」を「自信」変える
・「あきらめ」を「挑戦」に変える。
それを引き出すことができるのは私たち作業療法士です。自分のおじいちゃん、おばあちゃんにも今までの恩返しができる唯一の職業で、とてもやりがいのある仕事ではないでしょうか。
一緒に作業療法士を目指してみませんか?

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作業療法士科 4年制【高度専門士】

高校卒業以上

国家資格:作業療法士、幼稚園教諭

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