韓国の福祉制度-日本のソーシャルワーカーとの違い
目次
はじめに
K-POP、韓国コスメ、韓国スイーツ。
今の高校生にとって、韓国はとても身近な国ではないでしょうか。
好きなアイドルの音楽を聴いたり、SNSで流行っているメイクをしてみたり、友だちと韓国グルメの話をしたり。
「海外」と聞いて思い浮かべる国の中でも、韓国は特に近い存在かもしれません。
ではこんな質問をされたらどうですか。
「韓国って、どんな“福祉”をしている国か知っていますか?」
音楽や美容のイメージはあっても、
「福祉」や「支援の仕組み」と聞くと、急に遠い話に感じる人も多いはずです。
けれど実は今、韓国・ソウル市で行われているある取り組みが、世界中から注目されています。
それは、**「Stepping Stone Income(踏み石所得)」**と呼ばれる制度です。
「踏み石所得」って、どんな制度?
ソウル市のこの制度は、とてもシンプルな考え方から生まれています。
生活が苦しくなった人を、
いきなり“自分で何とかしなさい”とは言わない。でも、ずっと支え続けるだけでも終わらせない。
踏み石とは、川の向こう側に渡りたいときに川から頭を出している石を踏みながら向こう岸に渡ること。川に落ちないように石を踏んで慎重に渡っていきます。その石はずっととどまる場所ではなく、川の向こうに渡るための大切な足場です。
つまり、「自立するまでの“途中”を支える制度」です。
収入が少なく、生活が不安定な世帯に対して、不足している分の収入を補いながら、働くことや生活を立て直すことを応援します。
大きな特徴はここです。
- 少し働いて収入が増えても、すぐに支援が切れない
- 働くことで生活が楽になる実感を持ちやすい
- 「支援を受けながら前に進む」ことを前提にしている
この制度は「困りきった人」だけでなく「これから立て直したい人」を対象にしています。
だからこそ「ただお金を配る制度」ではなく“踏み石”としての役割を持っているのです。
日本の制度と、何が違うの?
「日本の福祉は遅れている」と言いたいわけではありません。日本の制度には日本なりの大切な役割があります。
たとえば生活保護制度。
これは、命と生活を守るための“最後の砦”です。
- 住む場所がない
- 食べるものがない
- もう一人ではどうにもならない
そんな人を確実に守るための制度です。
これはとても大切な仕組みですしなくてはならないものです。
ただし日本の制度はどうしても「困りきってから使う制度」になりやすい側面があります。
一方でソウルの制度はどうでしょう。
- 困りきる前
- 生活が不安定になり始めた段階
- まだ「やり直したい」という気持ちが残っている段階
その“途中”に手を差し伸べます。
どちらが正しい、という話ではありません。
ここで大切なのは、こうした問いです。
「支援は、いつ届くのがいいのだろうか?」
制度は「正解」ではなく「考え方」
ソウルの取り組みを知ると、私たちは日本の制度を少し違った目で見られるようになります。
- なぜ日本の制度は条件が厳しいのか
- なぜ「働くと不利になる」と感じる人がいるのか
- なぜ「最後の砦」として設計されているのか
それは日本が「まずは確実に守ること」を大切にしてきた国だからです。
一方、ソウルは「前に進む力をどう支えるか」に重点を置きました。
制度は、その国の価値観を映す鏡です。どちらが良い・悪いではなく、
「何を大切にしているか」が違うのです。
ここで、ソーシャルワーカーの話をしよう
ではこの違いの中で日本のソーシャルワーカーはどのようなことをしているのでしょうか。
ソーシャルワーカーは、新しい制度を作る人ではありません。
法律を決める政治家でもありません。
それでも、ソーシャルワーカーが必要とされる理由があります。
それは、制度と人の生活の間には、必ず“すき間”があるからです。
同じ制度を使っても、
- 安心できる人
- 不安が残る人
- 一歩踏み出せる人
- 立ち止まってしまう人
がいます。
その違いは、数字や条件だけでは見えません。
「この人にとっての踏み石は何か」を考える仕事
ソウルの制度が教えてくれるのは「制度そのもの」よりも視点です。
日本の制度の中でも、
- 今は生活を守ることが一番なのか
- 少し背中を押す方がいいのか
- まずは話を聞くことが必要なのか
人によって答えは違います。
ソーシャルワーカーの仕事は、制度をそのまま当てはめることではありません。
制度を使いながら、その人の人生に合わせて考えることです。
世界を目指さなくても、視野は広くていい
ソウルの取り組みを紹介しましたが、世界で活躍するソーシャルワーカーを目指してほしいわけではありません。
日本で働く。日本の制度の中で支援をする。
それで十分です。
しかし他の国の考え方を知ることで、日本の現場の見え方は変わります。
- 「この制度、こう使えばもっと安心できるかもしれない」
- 「この人には、今は“守る支援”が必要だ」
- 「別の支え方もあるかもしれない」
そんな視点を持てるだけで支援の質は変わっていきます。世界を知ることで日本を再認識することもできます。
東京福祉専門学校では海外研修を実施しています。近年はスウェーデンやアメリカを訪れて各国のソーシャルワークに触れてきました。福祉施設を訪問したりソーシャルワークを学ぶ現地の学生と意見を交換したりして理解を深めています。海外研修は毎年実施しており、参加を希望する学生が4年間のうちに好きなタイミングで申し込みをすることができます。海外研修期間は学校の授業は中断していますので授業の遅れを心配することなく海外研修に専念することができます。
福祉は「弱い人のため」だけじゃない
福祉は、特別な人のためのものではありません。
失敗したとき。
立ち止まったとき。
やり直したくなったとき。
誰にでも関係する、社会の仕組みです。
ソウルの制度は「助けるか、甘やかすか」という二択ではなく、「どうすれば人が前に進めるか」を問いかけています。
最後に、あなたに伝えたい問い
この記事を読み終えたあと、こんな問いを心の片隅に置いてみてください。
- 支援って、どこまでが「助け」なんだろう
- 安心があることで、人はどう変わるんだろう
- もし自分が誰かを支える立場になったら、何を一番大切にしたいだろう
これらの問いを持てたなら、
もうあなたは、社会福祉に触れています。
誰かの人生の中で、小さな“踏み石”を見つけられる人になる。
それがソーシャルワーカーの仕事です。