スクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーの違いについて
不登校児童生徒数約36万人過去最多を記録~そこで活躍する『スクールソーシャルワーカー』とは?~
突然ですが、みなさん一度くらいは「学校に行きたくないな…」と思ったことがあるのではないでしょうか。
そんな時に相談する相手として『スクールカウンセラー』は有名ですよね。
不登校をはじめとする学校で起きる諸問題に心理的なアプローチで援助を行います。モヤモヤとした心の悩みをほぐしてもらえるので、学校には欠かせない職業だと思います。ところがこの「不登校」を例にとってみても、心の問題がすべてとは限りません。
「定期テスト」などの行事に対し嫌悪や恐怖を感じていたり、「家庭の事情」が原因となっている場合もあります。そんな場合は、本人の心と向き合うだけでは解決しないため、周囲と連携をして本人の置かれている『環境』の方にアプローチする必要があります。
そこで登場するのが『スクールソーシャルワーカー』です。
ソーシャルワーカーとは主に社会福祉士や精神保健福祉士の資格をもった専門職のことで、その人が抱える問題に対し、さまざまな機関と連携しながら、解決に向けた支援を行なっていきます。カウンセラーが心の中の問題に向き合うのに対し、ソーシャルワーカーはその人の外(環境)で起きている問題に向き合います。
増え続ける不登校の問題はもちろん、障害や精神疾患を抱える児童生徒の問題、イジメ・暴力の問題、児童虐待、貧困、ひきこもり、ヤングケアラーの問題など、ますますスクールソーシャルワーカーが必要とされる時代となりました。
「チーム学校」という考え方
いくら教員以外の専門家を増やしたところで、互いを理解し、協働しあうことができなければ意味がありません。そこで中央教育審議会が平成27年より「チーム学校」という方針を出しました。チーム学校とは、「校長のリーダーシップの下、カリキュラム、日々の教育活動、学校の資源が一体的にマネジメントされ、教職員や学校内で多様な人材が、それぞれの専門性を生かして能力を発揮し、子供たちに必要な資質・能力を確実に身につけさせることができる学校」のことを指します。
子どもたちの問題行動の背景には、多くの場合、子どもたちの心の問題とともに、家庭、友人関係、地域、学校など子どもたちが置かれている環境の問題があり、子どもたちの問題と環境の問題は複雑に絡み合っています。単に子どもたちの問題行動のみに着目して対応するだけでは解決できません。
より効果的に対応していくためには、担任のみで対応するのではなく、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカーや心理の専門家であるスクールカウンセラーを積極的に巻き込み、チームで支援をおこなうことが重要なのです。
このようにスクールソーシャルワーカーの重要性が増してきました。
不登校の現状といじめの状況について
不登校数は、令和6年不登校児童生徒数は約36万人と過去最多を記録しました。そのうち、小・中学校における不登校児童生徒数は約29万9千人、90日以上欠席している児童生徒がおり、学校内外で相談・指導等を受けていない児童生徒もそれぞれ約16万6千人、約11万4千人と過去最多となっております。
いじめの認知件数は、令和4年度約68万2千人と過去最多を記録しており、いじめ重大事態の件数も923件と過去最多を記録しています。
そこで、誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校・いじめ対策の推進として、緊急対策が求められます。
誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策「COCOLOプラン」
不登校により学びにアクセスできない子どもたちをゼロにすること目指し、不登校の児童生徒の全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整えることや、心の小さなSOSを見逃さず「チーム学校で支援する」「みんなが安心して学べる」場所にすることにより、誰一人取り残されない学びの保障を社会全体で実現するプランを取りまとめました。
COCOLOプランに基づく対策として、学びの多様化学校設置の促進や、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーによる支援及び医師会との連携、高等教育における柔軟で質の高い学びの保障、保護者会など保護者への支援等を行う。
また、学校いじめ対策組織にスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、スクールロイヤー、スクールサポーター等外部の専門家を加えることで組織的に対応することで、安心して学べる学校づくりを推進していく。と明記されており、様々な専門家の視点で児童生徒を支えることが可能となった。
前述のとおり、不登校、いじめ問題は過去最高を記録しており、この数字は表面上出ているにすぎません。何らかしらの対応をされていたり、相談につながるケースは対応が出来ますが、そこにつながらないケースがまだまだいると思います。そこで、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが活躍していきます。
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違い
児童生徒の悩みや問題があった時に、ご本人がどう困っているのか悩んでいるのかを聞き、心理的アプローチをするのがスクールカウンセラーです。主にカウンセリングを通じて、問題解決に導いていきます。またクラスに対してはストレスチェックや授業観察を通して、問題になりそうなことを見つけ予防に努めたり、初期に対応したりしていきます。
対して、児童生徒に悩みや問題があった時に、表出されている問題だけに目を向けるのは無く、背景にも目を向け、その問題が起る原因は本人だけの問題なのかどうかを考え、周りにもアプローチしていくのが、スクールソーシャルワーカーです。
例えば、不登校の問題が起きた際、ご自宅に訪問し、家庭環境を知ることが問題解決につながって行くケースも沢山あります。不登校の原因も、ご本人の学校に行けない理由がある以外に、幼い兄弟の面倒やおじいちゃんやおばあちゃんの面倒を見なければならないといったヤングケアラーの問題や、貧困により学校に来ていく洋服や学校で必要な道具が買えないなど貧困の問題が隠れている場合もあります。
そういった場合、生徒児童は声を上げることが難しいケースが多い。またその問題を隠してしまう場合があるため、早期に発見し、福祉的側面からアプローチしていきます。
SC・SSWについて | |
スクールカウンセラー(SC) | スクールソーシャルワーカー(SSC) |
法令上の位置づけ | |
・学校教育法施行規則 第63条の3 ・スクールカウンセラーは、小学校における児童の心理に関する支援に従事する。 (中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校に準用) |
・学校教育法施行規則 第65条の4 ・スクールソーシャルワーカーは、小学校における児童の福祉に関する支援に従事する。 (中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校に準用) |
人材・資格 | |
・心理に関して専門的な知識・技術を有する者(公認心理師、臨床心理士等) | ・福祉に関して専門的な知識・技術を有する者(社会福祉士、精神保健福祉士等) |
主な職務内容 | |
①児童生徒へのカウンセリング ②教職員に対する助言・研修 ③保護者に対する助言・援助 ④ストレスチェックや授業観察等の予防的対応 ⑤事件・事故等の緊急対応おける児童生徒等の心のケア 等 |
①貧困・虐待等の課題を抱える児童生徒と児童生徒が置かれた環境への働きかけ ②学校内におけるチーム支援体制の構築、複数の視点で検討できるケース会議とするための事前調査やケースのアセスメント 及び環境解決のプランニングへの支援 ③関係機関とのネットワークの構築、連携・調整 等 |
スクールソーシャルワーカーとして働く卒業生(東京福祉専門学校)
ここで、東京福祉専門学校にて社会福祉士を取得し、卒業後はスクールソーシャルワーカーとして働く卒業生の声をご紹介します。
********************
スクールソーシャルワーカーの多くは1人で複数の学校を担当します。職場には同じ専門職の先輩や同僚がいないことが多く、支援の判断や対応を自分ひとりで担わなければならない現実があります。
さらに、子どもを取り巻く課題は、家庭の状況や経済的な困難、障害や虐待といった、とても繊細で複雑なケースがほとんど。そうした場面で適切な支援を行うには、「相談援助の経験」「制度や支援機関との連携スキル」「ケースマネジメント力」など、幅広い実践力が求められるのです。
だからこそ、私たちはこう伝えています。
「まずは福祉施設や病院などで経験を積んで、将来スクールソーシャルワーカーを目指す」という道も、とても大切な選択肢です。学校以外の現場では、ソーシャルワーカーの先輩や仲間とチームで支援を行う環境が整っています。支援の進め方を学び、実践の中で自分のスキルや考え方を深めることができます。そして、子どもや家庭に向き合う力をしっかり身につけたうえで、本当に支えたい現場へとステップアップしていけるのです。確かな準備を重ねることで、自分らしい支援者として一歩ずつ近づいていくことができます。
********************
現場を知る専門家から学ぶ
〜スクールソーシャルワーカーを育てる授業〜
そんな東京福祉専門学校では、スクールソーシャルワーカーを目指す学生にとって大切な科目として「スクールソーシャルワーク概論」「児童家庭福祉」「ソーシャルワーク演習」などを開講しています。
これらの授業を担当するのは、スクールソーシャルワーカーとして豊富な現場経験をもっていたり大学院でスクールソーシャルワークを専門に研究している先生です。
子どもや家庭を取り巻く福祉の課題に実際にどのように対応してきたのか。学校現場で直面する困難や、地域・家庭との連携のポイントなど、教科書だけでは学べない“実践的な知識”や“現場のリアル”を、具体的な事例を通して教えてくれます。
授業の中では、
- 実際に学校で起こったケースをもとにした対応の流れ
- 家庭訪問や福祉機関との連携での工夫
- 子どもや保護者と信頼関係を築くコミュニケーションのコツ
など、将来現場に立ったときに役立つ“生きた学び”が詰まっています。
また、演習の授業では、学生同士でのロールプレイや意見交換を通して、「どう支援するか」を自ら考え、行動する力を養っていきます。
ただ知識を詰め込むのではなく、現場に立つ自分を思い描きながら学ぶことができる。それが東京福祉専門学校でスクールソーシャルワーカーを目指す学びの大きな魅力です。
ソーシャルワーカーの今後
私は以前、精神科のクリニックで主に子どもの精神疾患や発達障害を抱える方の支援を行っていました。関わる中で、もちろん学校に行けない子ども本人も苦しい思いをしていましたが、それと共に、ご家族や学校の先生もどうしたらいいか困っているケースがありました。各々、相手のことを考えて行動しているのに、全てのことが悪い方向に動いてしまうことがありました。そこで私は、その絡んだ糸をほぐすように、ご本人やご家族だけではなく、学校の先生や、関係機関などひとり一人と話をし、どの方向性でいけばよいのか、絡んでいる糸の原因は何かを探っていきました。そのことにより問題の解決に向かったことがありました。
ソーシャルワーカーは問題を抱えている本人だけでなく、周りの環境に目を向け調整をしていきます。また、表面上に出てこない潜在的な問題に目をむけ、一緒に解決をしていきます。すぐに問題が解決しなくても、一緒に考え、その方がその人らしく生活が送れるようにしていきます。
多様化している社会の中で今後、社会福祉士や精神保健福祉士をはじめとするソーシャルワーカーが必要とされ、活躍するフィールドも増えてくると考えています。
▶『スクールソーシャルワーカーについて』さらに詳しくはこちら
現場の声を、直接聴いてみませんか?
スクールソーシャルワーカーの仕事に興味がある方、実際にどんな支援をしているのかもっと知りたい方へ。
東京福祉専門学校では、現在もスクールソーシャルワーカーとして現場で活躍している講師による体験授業をオープンキャンパスで実施しています。
体験授業では、
- 子どもや家庭の支援に関わるリアルなケース紹介
- 学校現場での対応の工夫ややりがい
- スクールソーシャルワーカーになるために今できること
などを、わかりやすく・丁寧にお話ししています。
「自分にもできるかな?」「どんな力が必要なんだろう?」
そんな不安や疑問にも、講師が直接お答えします。
ぜひ一度、“支援の現場”に触れる機会としてご参加ください。
あなたの思いが、きっと誰かの力になる日が来ます。
そのための土台づくりを、まずはここから一緒に始めてみませんか?
引用・参考文献
「文部科学省 中央教育審議会 チームとしての学校のあり方 平成28年1月」
「文部科学省 初等中等教育局 全国こども政策関係部局長会議 令和6年1月」
「文部科学省 学校における指導・運営体制の充実について 令和5年4月17日
「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)令和5年3月31日
久保田 千尋 先生
<専門> 精神保健福祉 <略歴> 本校の「スクールソーシャルワーカー」 大学卒業後、老人保健施設で介護福祉士として働く。その後、精神保健福祉士としてクリニックでデイケアを中心に7年間勤め、通信制教育機関での学生サポート及び家庭のサポートに従事、その後本格的に教育の仕事へ転進し今に至る。
座右の銘:意味のないことはない。 全てのことに意味がある。